徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
学芸員の作品解説
人物
1927年
エッチング 紙
19.4×27.7
1927年
エッチング 紙
19.4×27.7
パブロ・ピカソ (1881-1973)
生地:スペイン
生地:スペイン
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ピカソ人物
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20世紀の版画展
パブロ・ピカソ 「人物」
友井伸一
画面全体に縦横無尽に線が走り回っているが、ここには人物が表現されており、ガイザー編集の版画作品目録(I-No.122)によると、タイトルの別称として〈低いテーブルのある、ソファの上の二人の裸婦〉と記載されている。画面右上に一人の人物の小さな頭があるのがわかり、もう一人の人物の頭は左上に大胆にデフォルメされて描かれている。その他の人体の部分については、どれがどの人物のものかは明確ではなく、入り組んでいる。また、体のプロポーションも大幅に変更されており、特に目立つのが、頭の小ささにくらべて足が異様 に大きな点である。また、画面左、上、右下等に模様が刻まれているが、これは二人の裸婦が座っているソファを表すものと思われる。特に曲線の多用が目につくが、それはキュビスムの中でも自然主義的な物の形態が復活していた1910年代後半から20年代初頭の総合的キュビスムのうちで後半の時期にも見られる傾向である。またこの時期は新古典主義の時期とも並行するが、そのなかに見られる丸みを帯びたモニュメンタルな人体表現にも曲線の使用の要素が見て取れる。それと同時に特に1925年の<ダンサー>(ゼルヴォスのピカソ作品総目録V、No.426)に見られる極端なデフォルメ、怪物のような、あるいは病的にも見える痙攣するような人体表現によって、この時期のピカソの作風は決定的な展開を見せている。
この<人物>は、銅版画の技法に習熟し、エッチングの自在で柔らかい線の効果が十分に発揮された、シュルレアリスムとの関連を思わせる、40代半ばのピカソ円熟期の作品である。
ただしこの作品は制作された当初の1927年には試し刷りとして、わずかに2部刷られただけであった(ルイ・フォール刷り)。つまり、制作された当時はほとんど陽の目を見なかったのである。これが世の中に販売されたのは、なんと戦後の1961年になってからのことである。発行元はルイーズ・レイリス画廊。1960年から61年にかけて、ピカソの監督のもとでラクリエール工房のジャック・フレロによって、サインとエディション・ナンバーつきの50部に加えて、サインのみ記載の15部と 版元保存分として数部刷られた。今回出品の当館所蔵の作品は、サインのみであり、1961年のルイーズ・レイリス画廊版の中で、15部刷られたもののうちの一つである。
これに類似の作例はきわめて少ないが、この作品は実験的な要素が強く、オートマティック・ドローイングなどの、とりわけシュルレアリスムとの関連が指摘できるだろう。(※)
※ この点については拙論「ピカソの版画<人物>(1927年)をめぐって」『芸術学芸術史論集 第7号』神戸大学文学部芸術学芸術史研究室 1995年7月 を参照いただきたい。
「変貌するひとのすがた ピカソの版画」(コレクション+αで楽しむシリーズ)
2006年11月
徳島県立近代美術館 友井伸一
2006年11月
徳島県立近代美術館 友井伸一