今年の活動をふりかえってみたいと思いますが、どこから書き始めようか迷ってしまうほど、広がりと深まりを体験できた濃い一年でした。何といっても音楽と文学に目を向けた「+α」展で、展覧会担当者の思いがこもった新鮮な企画が光りました。

 音楽展ではサロン・コンサートを21回公演。「川人伸二と仲間たちによるコンサート」と題し、絵の前で演奏する楽しさや苦心など率直に話して下さったトークも素敵でした。また、参加者と共同で作曲する音楽活動をしておられる野村誠・林加奈さんのワークショップは、お手伝いしているだけでワクワクの時間となりました。参加者が奏でていく音、それを野村さんがまとめていく音楽、それらを聞きながら絵をみるのは、実に楽しい芸術体験でした。見学のお客さまを募集すれば良かった!というのが悔しい反省点。それほど良かった。

 文学展は短歌と作品が並び、展示風景も一風かわった印象が楽しい企画でした。短歌と絵のギャラリートーク、絵に触発されて選んだ本を朗読する会など、次の機会が楽しみです(安達さんいかがですか!)。定番として展覧会担当者による展示解説や、じっくり知りたい人向けの講座もがんばっています。

 作家さんの声をもっと身近に聞ける場所、そんな美術館の姿を思い描いて、ゲスト・アーティスト・アワーを企画しました。画家の谷川泰宏さん、彫刻家の河崎良行さん、お二人とも仕事への愛着を誠実に語って下さり、とても暖かい時間が生まれました。長らく館の委員でお世話になってきた河崎さんには、開館15 周年を振り返ってのコメントもお願いしました。これからも色々な方をお招きしてみたいです。

 「40人のパノラマ絵画」のワークショップをお願いした岩野勝人さんとの出会いは、担当である僕たちにとっても示唆に富んだ夢とやる気を与えてくれました。見ること、描くことを、率直に体験するパノラマ絵画は、とてもシンプルでありながら懐の深いプログラム。サポートに駆けつけてくれた若手作家たちの関わり方も、それは素適でした。eductiveと題した岩野軍団の展覧会と大パノラマ展を連結して行いました。小学生の参加者たちと若い作家が、飾らない対話を自然にしている様子は、さわやかでそしてとても重要なものに思えました。岩野さんとは平成19年度国文祭に向けて、新たなプロジェクトの相談を始めています。お楽しみに。

 2年目に入ったことも鑑賞クラブも、熱心に参加して下さる皆さんに支えられ、どんどんパワーアップしています。手探りだった初めの頃に比べれば、アイデアも自分たちを信じる気持ちも成長してきたと自負します。あふれる力を発揮してくれる子どもたち、お家の方に僕らは育てられている、そう実感しています。文学展の回では、富田小学校3年1組との交流クラブとなりました。担任の濱口由美先生と企画した、文学展の特設コーナー「クレーさんとお話をしながら」は、鑑賞教育の創造性を深く理解する素晴らしい体験となりました。子どもたちが自らの未知の力を発揮する喜び、それを自分で獲得していくことの大切さ、まさに鑑賞教育の核心にせまる扉が開かれた思いです。

 こうした活動を知ってもらいたくて、ブログも初めました。美術館サイトをのぞいてみて下さい。そして、こうした経験を元に、第12回を迎える移動展は「パクパクパーク 展覧会きみ+アート=おしゃべり!」と題し、相生森林美術館の「那賀こどもアート展」に合流して開催することができました。作品選びから10のテーマとパクパククイズ、ポスター、鑑賞カード、ギャラリートークと、子ども向けの展覧会に初めて挑戦。大勢の子どもたち、先生方と忘れられない出会いを経験しました。

 次のキーワードは間違いなく「交流」だなと思いを強くしています。フレンドリーであること、にぎわい、しかしそれだけではないはずです。他者の価値観、美との出会い方、美術館の楽しみ方、そのようなことへ、お互いが心を開いていくために必要なことは何なのか。これからも様々な人の力を借りながら美術館活動を盛り上げていきたいと思います。


徳島県立近代美術館ニュース No.57 Apr.2006
2006年3月
徳島県立近代美術館 竹内利夫

 いよいよ4月のオープンをひかえて「吹田文明展」の準備が進んでいます。作家現住地の世田谷美術館と(4月22日から)、故郷の徳島(9月2日から)で共同開催される展覧会について、速報レポートします。

 このたびの展示では、輝かしい過去の受賞作や近年の代表作に加え、小学校教師時代の図工科研究に果たした先駆的な業績、またその時期に新しい木版画の世界をどん欲に模索した頃の作例など、作家の全貌をこれまでにない規模で一望します。なにはともあれ、アトリエに何度もお邪魔して吹田さんからお話をうかがい、それに貴重な活動記録をいろいろと拝見することを続けてきました。英語版で海外にも紹介されることになった、版画指導書の先駆けである『たのしい版画』。若き日の作家教師の熱血ぶりがタイムカプセルのようによみがえった、学研映画受賞作品の発見(もちろん上映します!)。どうぞご期待下さい。

 ところで、学芸員として一人の作家さんのワンマンショーを担当させていただけるというのは、テーマ展や名品展を企画する時とはまた違った、格別の時間を過ごすことになります。過ごさざるを得ないのです。目下、私は過去の記事や年譜のまとめの作業をしています。年譜をたどってみれば、全国でも先進的な版画教育に吹田さんが邁進したのは昭和30年代初頭。今は昔この国が高度経済成長の時代へと歩みを速めていった時代でした。作家として華々しいデビューを果たし、小学校から大学へと移動してからも作家吹田文明の歩みは、現代版画と教育の二つの軸がクロスしながら骨太い跡を刻んでいきます。

 そんな重い作家の歴史を、ちょっとインタビューしたくらいで分かった気になったとしたらそれは危険なことです。実際、知っているつもりだった作品も、調査を重ねながら、またパートナーの世田谷美術館の村上さんと作品選定をしながら、一層見方が深まり新しい発見をしました。版画というのは、技術面でのアイデアや発見が次の創作に結びついていく要素がとても大きい分野です。若き日の大量の作品を手にとって眺めながら、ふと創作に没頭する作家の時間がそばをよぎる、そんな想いに何度か出会いました。

「同じことを反すうしているつもりだった。」作家の言葉です。作品はいくつもの変身、転機をくり返し、テーマも手法も変遷しているのですが、作家本人はそのように感じていたと。ちょっと言葉にできないような感動を覚えた瞬間でした[つづく]


徳島県立近代美術館ニュース No57 Apr.2006
2006年3月
徳島県立近代美術館 竹内利夫