[交流としての美術] 教育担当からのレポート 2005

 今年の活動をふりかえってみたいと思いますが、どこから書き始めようか迷ってしまうほど、広がりと深まりを体験できた濃い一年でした。何といっても音楽と文学に目を向けた「+α」展で、展覧会担当者の思いがこもった新鮮な企画が光りました。

 音楽展ではサロン・コンサートを21回公演。「川人伸二と仲間たちによるコンサート」と題し、絵の前で演奏する楽しさや苦心など率直に話して下さったトークも素敵でした。また、参加者と共同で作曲する音楽活動をしておられる野村誠・林加奈さんのワークショップは、お手伝いしているだけでワクワクの時間となりました。参加者が奏でていく音、それを野村さんがまとめていく音楽、それらを聞きながら絵をみるのは、実に楽しい芸術体験でした。見学のお客さまを募集すれば良かった!というのが悔しい反省点。それほど良かった。

 文学展は短歌と作品が並び、展示風景も一風かわった印象が楽しい企画でした。短歌と絵のギャラリートーク、絵に触発されて選んだ本を朗読する会など、次の機会が楽しみです(安達さんいかがですか!)。定番として展覧会担当者による展示解説や、じっくり知りたい人向けの講座もがんばっています。

 作家さんの声をもっと身近に聞ける場所、そんな美術館の姿を思い描いて、ゲスト・アーティスト・アワーを企画しました。画家の谷川泰宏さん、彫刻家の河崎良行さん、お二人とも仕事への愛着を誠実に語って下さり、とても暖かい時間が生まれました。長らく館の委員でお世話になってきた河崎さんには、開館15 周年を振り返ってのコメントもお願いしました。これからも色々な方をお招きしてみたいです。

 「40人のパノラマ絵画」のワークショップをお願いした岩野勝人さんとの出会いは、担当である僕たちにとっても示唆に富んだ夢とやる気を与えてくれました。見ること、描くことを、率直に体験するパノラマ絵画は、とてもシンプルでありながら懐の深いプログラム。サポートに駆けつけてくれた若手作家たちの関わり方も、それは素適でした。eductiveと題した岩野軍団の展覧会と大パノラマ展を連結して行いました。小学生の参加者たちと若い作家が、飾らない対話を自然にしている様子は、さわやかでそしてとても重要なものに思えました。岩野さんとは平成19年度国文祭に向けて、新たなプロジェクトの相談を始めています。お楽しみに。

 2年目に入ったことも鑑賞クラブも、熱心に参加して下さる皆さんに支えられ、どんどんパワーアップしています。手探りだった初めの頃に比べれば、アイデアも自分たちを信じる気持ちも成長してきたと自負します。あふれる力を発揮してくれる子どもたち、お家の方に僕らは育てられている、そう実感しています。文学展の回では、富田小学校3年1組との交流クラブとなりました。担任の濱口由美先生と企画した、文学展の特設コーナー「クレーさんとお話をしながら」は、鑑賞教育の創造性を深く理解する素晴らしい体験となりました。子どもたちが自らの未知の力を発揮する喜び、それを自分で獲得していくことの大切さ、まさに鑑賞教育の核心にせまる扉が開かれた思いです。

 こうした活動を知ってもらいたくて、ブログも初めました。美術館サイトをのぞいてみて下さい。そして、こうした経験を元に、第12回を迎える移動展は「パクパクパーク 展覧会きみ+アート=おしゃべり!」と題し、相生森林美術館の「那賀こどもアート展」に合流して開催することができました。作品選びから10のテーマとパクパククイズ、ポスター、鑑賞カード、ギャラリートークと、子ども向けの展覧会に初めて挑戦。大勢の子どもたち、先生方と忘れられない出会いを経験しました。

 次のキーワードは間違いなく「交流」だなと思いを強くしています。フレンドリーであること、にぎわい、しかしそれだけではないはずです。他者の価値観、美との出会い方、美術館の楽しみ方、そのようなことへ、お互いが心を開いていくために必要なことは何なのか。これからも様々な人の力を借りながら美術館活動を盛り上げていきたいと思います。


徳島県立近代美術館ニュース No.57 Apr.2006
2006年3月
徳島県立近代美術館 竹内利夫