特別展
アメリカ版画の今 - 5つの工房から
  2008年7月19日[土]- 8月31日[日]

 展覧会のアウトライン 

ケント・ヘンリクソン<子供の童話:ピンクⅠ> この展覧会は「工房」という切り口からアメリカ版画の現在をご紹介するものです。工房とは、様々な分野のアーティストたちに、共同制作と表現の可能性を提供する場だと言えます。単に下絵を版画にして印刷する工場といったイメージをはるかに越える、コラボレーションの素晴らしさ、そして版という表現手段の発展性を再認識できる内容となっています。
  アメリカを代表する新旧5つの工房それぞれから作家を推薦するという本展の企画は、これまで海外との交流展を盛んに行ってきた「KYOTO版画」と、アメリカの現代版画を先導してきたタマリンド工房との共同により進められました。KYOTO版画は主に関西の作家たちによる自主運営組織であり、去る5月には京都市美術館別館において「日本・アメリカ国際版画展」として開催されました。そのアメリカ部門を巡回する本展は、作家そして工房というアートの現場に根ざしたリサーチの姿勢に大いに立脚するものと言えます。

【右図版】 ケント・ヘンリクソン 〈子供の童話:ピンクⅠ〉 2005年


 広がる「版」 

 出品作品を見渡してみると、いわゆる木版画や銅版画などの技法だけが「版」だという発想をくつがえすような作例に多く出会います。
マリーリー・ベンドルフ<家の平面:ムラサキ> 例えば、銅版画工房として出発したポールソンから推薦された、マリーリー・ベンドルフの作品は技法こそ銅版画ながら、イメージの元は作家の出自と切り離せないキルト作品です。
 紙造形からデジタル・アートまで幅広く手掛けるピラミッドで制作されたマーガレット・プレンティスの表現はパルプペインティングと呼ばれ、紙自体が絵として作られているものです。
 写真に関連した技術に特徴のあるセグラでは、ジェームズ・タレルによる光をコンセプトとした映像表現が版画化されています。
 デジタル技術を駆使して作家の発想に応えるソロでは、ケント・ヘンドリクソンによる刺繍とリトグラフを融合させた斬新な作例があります。
 そして1960年の創設以来、アメリカの版画工房をリードしてきたリトグラフ中心のタマリンドからは、ハン・リュウやジェーン・クイック=ツー=シー・スミスらの、写真のイメージを絵画的に操った作品が紹介されています。
 これらのみならず、出品作品に共通する大きな特徴は、「版」の技術が柔軟に選択され、作家たちの発想や意欲を何倍にも豊かにしているように思われる点です。日本の版画作家の多くが、独力で版画手法の個性を探求している傾向と比べて、アメリカ版画においては工房という共同体制の中で自分を見つけていこうとする態度が印象的です。

【左図版】 マリーリー・ベンドルフ 〈家の平面:ムラサキ〉 2005年
※画像の無断コピーは、法律で禁じられています。
Copyright:徳島県立近代美術館.2008