ジャポニスム展より
【 この1点 】


海の惨劇

 

静かな海を航海する船。その下では、大荒れの海が待ちかまえる。 この部分はちょうど日本の団扇を逆さまにしたような形。描き方は墨絵の濃淡の効果を思わせる。 これは、浮世絵師歌川貞秀の扇面画が基になっているといわれている。
 

ポール・
ゴーガン

海の惨劇 (メールシュトレームに呑まれて)-『ヴォルピーニ連作』より

作品画像この作品が制作されたのは、ゴーガンがアルルでのゴッホとの共同生活に別れを告げた1888年の翌年である。 日本びいきのゴッホの影響もあったのだろう。
紙は黄色。ゴッホが日本の浮世絵などに刺激されて、背景に黄色を塗った作品を描いていたことを連想させる。

それはそうとして、江戸時代には、表紙が黄色で簡単な装丁の黄表紙という本があった。 風俗や世相を取り入れ、ユーモアを交えた内容のもので、広く大衆に好まれた。ゴーギャンは黄表紙のことを知っていたのだろうか。
これは、ゴーギャンの愛読したエドガー・アラン・ポーの短編小説『メールシュトレームに呑まれて』に寄せられた挿し絵である。 彼が本の挿し絵に黄色い紙を使うことにしたのは、黄表紙のことを意識していたからではないかと想像すると興味深い。
(亜鉛版画 1889年)

 

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ジャポニスム展
世紀末から-西洋の中の日本
2001年4月28日-6月3日