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 6  日本画の強さとはかなさ


【村上華岳〈踊り之図〉】  日本画には、くめども尽きぬ魅力が隠されています。その多彩な魅力のなかから、ここでは、「やわらかさのなかの強さとはかなさ」という視点で日本画を見直してみたいと思っています。
  たとえば、細く繊細な線がもつやわらかさと緊張感。たとえば、日没前の川面が煌めく一瞬(髙山辰雄〈野辺〉)と、それを画面に留めようとする画家の意志。表された人間たちには、人の生の移ろいやすさと強さも読み取ることができるでしょう。
  このコーナーでは、大正期の横山大観や村上華岳、戦後の星野眞吾、川端健生までをコンパクトにご覧いただきます。
  年若い舞妓の踊る姿、いくさと重ねられた神話の世界、亡き人への想いなど、描かれているものに違いはありますが、磨き上げられた技法と材料のもつ繊細さ、人を見つめる視線の深さをお楽しみいただけたらと思います。

(担当:森芳功)
  

 7 版のマチエール

【加納光於〈青ライオンあるいは《月・指》Ⅰ〉】
  加納光於(1933~)と一原有徳(1910~)、二人に共通するのは銅版画の技術をベースとしながら、およそ誰も思いつかなかったような版画の表現世界を開拓したことです。それは版のマチエール表現とも言えるものでした。油絵で言うマチエールとは本来、描かれた材質感や、また画面自体の肌合いも指す言葉ですが、彼らは独特の発想で金属版の表情を引き出します。
  加納光於の、地層や気象を思わせる巨大な振動と微生物のミクロ世界が同居するかのような不思議な幻影のイメージ。一原有徳の、人工物と自然の境界を照射するかのようなクールな叙情。
  1950年代の美術思潮を特徴づけたアンフォルメルの精神を、彼らは版において実現したというのがここでの視点です。薄い表層から凶暴なマチエール感を紡ぎ出した、二人のオリジナリティの高い仕事は、現代版画に静かなインパクトと詩情をもたらしました。
(担当:竹内利夫)
  

 8 降り積もるいのちの時間

【石内都〈「25 MAR 1916」#5〉】
  40歳になった年、石内は人が生きた時間は身体のどこに留められているのかを考えました。そこから、同世代の女たちの手足や男たちの肖像を経て、身体の傷に出遭います。それは人の来し方を直截に伝えるもので、石内は、制作を通じて、命や身体を愛おしいと思いました。
  「傷跡」の作品の中でも、この13点は、石内にとり特別な思いを寄せるものです。これらは実母の84歳の誕生日に撮影されたものです。他人の傷を娘が撮らせていただいているのだから、と石内は母を口説きました。そして、その年の暮れ、石内はその母を亡くしたのです。
  命を守る強さを持ちながら、それゆえに傷つけられてしまう脆さを持つ皮膚は、私たちと外界との接点。そこに刻まれた傷跡から、作家は傷の奥に潜む個人の生きざまに思いを馳せます。それらは、どれだけの勇気と命を讃えるメッセージを発していることでしょう。
(担当:吉原美惠子)
  

【上図版】 村上華岳 〈踊り之図〉 1917年
【中図版】 加納光於 〈青ライオンあるいは《月・指》Ⅰ〉 1991-92年
【下図版】 石内 都 〈「25 MAR 1916」#5〉 2000年  

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