徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
学芸員の作品解説
阿南の海
1927年
絹本着色
165.0×175.0
1927年
絹本着色
165.0×175.0
日下八光 (1899-1996)
生地:徳島県那賀郡
生地:徳島県那賀郡
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日下八光阿南の海
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鑑賞シート「指導の手引き」より
日下八光 「阿南の海」
仲田耕三
今年の3月23日、日下八光さんが96歳で亡くなられ、新聞の各紙に報道された。これでまた、戦前から活躍してきた貴重な数少ない生き証人とも言える現役の日本画家を残念ながら一人失ってしまった。日下は徳島県那賀郡羽ノ浦町に生まれ、本名を喜一郎という。東京美術学校日本画家を卒業後、大谷探検隊が持ち帰った西域壁画や東京国立博物館の古画を模写。戦前は結城素明門下の研究団体「晨光会」に参加し、主に文展や帝展に作品を発表、東京美術学校教授として後進の指導に当たった。
戦後は文化庁の委嘱で、装飾古墳壁画の模写と復元に携わり、装飾古墳に関する著書も多く、装飾古墳の研究でよく知られている。近年その成果が国立歴史博物館などで開催された「装飾古墳の世界展」に展示され、高い評価を受けた。
この作品は、東京美術学校日本画研究科を修了した翌年、28歳の時に描かれた最も初期の貴重な作品の一つである。作品名は「阿南の海」となっているが、残されたスケッチに「阿南北の脇海岸 昭和二年喜一郎写」と記されていることから、昭和2年の阿南市北の脇海岸を描いたことがわかる。現在の北の脇海岸は、防波堤が築かれ、北の脇海水浴場と中林漁港となり、観光地引き網や海水浴客などで、夏はにぎわっている。
ほぼ真四角の画面には、遠くに椿泊や蒲生田岬を眺め、室戸阿南海岸国定公園に指定され古くより風光明媚とうたわれた橘湾に1そうの帆船を浮かべ、近くには、たわわに実ったみかんや咲きみだれる桃花と菜の花、魚を干す漁婦など、春先ののどかないらかがほのぼのと描かれ、白砂青松たる当時の北の脇海岸が偲ばれる。
毎日新聞 (四国のびじゅつ館)40
1996年4月27日
徳島県立近代美術館 仲田耕三
1996年4月27日
徳島県立近代美術館 仲田耕三