徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
学芸員の作品解説
美しい自転車乗り
1944年
油彩 キャンバス
112.0×127.0
1944年
油彩 キャンバス
112.0×127.0
フェルナン・レジェ (1881-1955)
生地:フランス
生地:フランス
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レジェ美しい自転車乗り
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フェルナン・レジェ 「美しい自転車乗り」
仲田耕三
1900年、19才のフェルナン・レジェはフランス北部のアルジャンタンからパリに出てきました。美術の世界では、19世紀後半の印象派に始まる革新的な動きが、20世紀に入り今まさにそのピークを迎えようとしている時でした。この後、フォーヴィスム(野獣派)、キュビスム(立体主義)、シュルレアリスム(超現実主義)など、革新的な動きが次々と繰り広げられ、レジェもまた、それを担った一人となったのです。製図工をしながら画家を志していたレジェが、当初強い影響を受けたのはセザンヌと、ピカソらが創始したキュビスムでした。そして、彼が独自の表現を生み出すのは、1914年から17年まで従軍した第一次世界大戦の後です。従軍中に彼が最も刺激を受けたのは、熱い太陽に照らされてまぶしく光る銃身や、むき出しの金属が放つ輝きで、除隊後はそのような機械のイメージを取り入れ始めます。機械、それはレジェにとって発展してゆく近代生活のシンボルでもありました。そのころのレジェの作品では、人間すら金属のような輝く肌や鉄板を曲げたような髪をしています。この機械主義への傾倒が、彼と近代建築の立役者ル・コルビュジェとの交流を可能にし、そのことがドイツの近代デザインの学校「バウハウス」を始め、当時の最先端の芸術思潮に対してレジェが影響力を持つ基盤となりました。
第二次世界大戦中のナチス・ドイツのフランス侵攻は、パリ在住の多くの革新的な芸術家を亡命に追いやりました。彼らは明らかに20世紀美術の主流を生みだしたのですが、その表現の新しさや当時の軍部の無理解のために、追放されました。レジェもその例にもれずアメリカに亡命しています。
〈美しい自転車乗り〉は、そのアメりカ時代の作品です。自転車はレジェの好んだ主題でした。4人の人物が自転車を携え休息しているこの作品には、余暇を楽しむ都市生活者や機械文明を象徴する自転車などを通じて、近代生活を楽観的にとらえたレジェの特質が表れています。また、形態的には角張った人物と曲線的な自転車の車輪が、色彩的には白い人物たちと、黄、青、赤、緑の色の帯が、それぞれ対比させられていますが、この形や色の対比は、レジェの画面構成の最大の特色です。
自転車を扱った作品は、パリのポンピドゥー・センターや国立フェルナン・レジェ美術館などに収蔵されており、習作も含め数多く制作されています。それらの中でもこの作品は、細部までよく描き込まれた完成度の高いものとなっています。
徳島県立近代美術館ニュース No.19 Oct.1996 所蔵作品紹介
1996年9月
徳島県立近代美術館 仲田耕三
1996年9月
徳島県立近代美術館 仲田耕三