徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
着衣の横たわる母と子
1983年
ブロンズ
138.5×265.5×147.0
ヘンリー・ムーア (1898-1986)
生地:イギリス
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ムーア着衣の横たわる母と子
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ヘンリー・ムーア 「着衣の横たわる母と子」

吉原美惠子

 美術館を訪れた人は、まず最初に美術館ロビーで、ヘンリー・ムーア作の〈着衣の横たわる母子像〉(一九八三年)と出合うことでしょう。大地に根づいたように、どっしりと横たわる母親と、その片腕の中に安らかに身をゆだねる幼子が、やや抽象化された形態で示されています。そこには大らかで充実した生命力が感じられます。人間賛歌をそのまま形にしたような作品です。
 横たわる人物像や母子像は、ムーアが幾度となく制作したモチーフであり、最も好んだものです。ムーアは、その造形表現のヒントをしはしば自然から得ました。ここでも母親の肩、腰、脚(あし)にかけてのうねりや、腕の力強い表現、胸、腹の表現など、随所にムーアの自然への目を感じとることができます。
 ヘンリー・ムーアは一八九八年、イギリスに生まれました。大家族の中で、愛やいたわりや優しさに満ちた幸福な日々を送り、育った彼は、その至福の時を作品の中に結実させようと試みていたかのようです。そして、人間表現において卓抜な表現力を示した彼は、二十世紀の彫刻界の頂点を極めたと言われています。
 同じフロアに、ムーアよりやや時代をさかのぼり、近代彫刻の巨匠の一人と言われるアリスティード・マイヨールの〈着衣のポモナ〉(一九二一年)も常設されます。
 ポモナは春の女神です。花や果実などとともに、若々しく美しい乙女の姿で表されます。広く豊かな胸や腰は、生きとし生けるすべてのものの生命の根源を象徴しているかのようです。肉付きのよい量感のある肢体は、しなやかで均整がとれており、伝統のスタイルをよく学んだ作者の姿勢がうかがえます。
 マイヨールは一八六一年、フランスに生まれました。最初は画家になろうとしたのですが、後に彫刻家に転向しました。ロダンやブールデルとともに、近代の彫刻史に大きな足跡を残しています。
 このほかに、屋外展示場には、フェルナンド・ボテロ作の太っちょの〈アダムとイヴ〉(一九八一年)がユーモラスに立っていたり、ジョージ・シーガルの〈ベンチに座るサングラスの女〉(一九八三年)が、何とも不思議な雰囲気をつくり出していたりします。
 また、イサム・ノグチの〈オドリコ〉(一九八四年)は、石のもつ色彩をうまく生かして味わいのある作品となっていますし、リン・チャドウィックの〈腰をかける人〉(一九七九-八○年)は、その独特な角ばった頭部の表現が目を引きます。
徳島新聞 県立近代美術館 02
1990年10月17日
徳島県立近代美術館 吉原美惠子