先ほど美術館長の講評にもありましたが、グランプリと準グランプリは得点順でスムーズに決まりました。しかし、次のチャレンジ奨励賞、MIP賞が決まるまでは難産でした。2時間にわたって相当な議論を重ねました。それだけ接戦だったということをまずご報告しておきたいと思います。
グランプリを受賞されたはなのようこさんの作品は、大作です。画面に割れた鏡がいくつも貼り付けられており、そこに周りのものが写ることで、平面なのに立体を感じさせる効果を生み出しています。その鏡に当たった光が反射し、床に光の形がつくられるところも美しいなと思いました。
準グランプリのハラダサキさんの作品は緻密な線を重ねた表現で、絵のなかに動物や花など色々なものが隠されています。それを探す魅力のあるのが、得点の高かった要素なのだと思います。
私は昨年から審査委員をさせて頂いているのですが、今回も作品からチャレンジの性質やその度合いを見出すのが難しいなと思いました。たとえば、作品を初めて制作する人は、スタートラインに立って作品を生みだすこと自体がチャレンジであり、大きなエネルギーが必要になります。キャリアのある方は、長く制作する過程でマンネリに陥らずに新鮮な視点を見つけていく努力が必要であり、深みを生み出すことにもチャレンジの力が求められます。制作する人一人一人、チャレンジの性質が異なるわけなのです。 そのような制作する人のチャレンジする姿を見いだすのは、難しくもあり、また魅力にもなってくるのだと感じます。
いくつか作品を紹介したいと思います。まず、「頑張ってください」という意味の奨励賞を受賞された方から。
穴山千代子さんの作品は、阿波和紙を染めたものを織った作品です。落ち着いた色感が美しいなと思いました。富士山の作品を中心に置き、まわりにさまざまな色の組み合わせをした抽象的な形の作品を置く。その構成もシンプルでよかったです。経験年数が4年といいますが、「どうしても織ってみたい」という意欲が感じられました。これから、阿波和紙を使った表現の可能性を広げていってほしいと思います。
まるおかあきこさんの作品は、日々拾ったもの、心惹かれたものをお薬の袋に包むようにして連ねた作品です。包まれているのは紅葉した葉っぱとか鳥の羽など、自然のものが多いのですが、その美しい色と形を見ていると、作者が日々何を感じ何に感動したのかが伝わってきます。そのような行為が、今後も途切れず継続していくことで、深まりがどのように加わっていくのか注目したいと思います。
杉本悠希さんは、ロックフェスティバルの観衆の様子を、木版の版木に彫るようにして描いています。彫刻刀による線に生き生きしたリズム感があるのは、作者がコンサートに参加していたからなのでしょうか。もしそうであれば、エノキのように表した群衆のなかにご自分がいることになり、パンフレットにあったちょっぴり毒気のあるコメントも一筋縄にはいかなくなります。いろいろ想像できて面白い作品だと思いました。
あと、選にはもれましたけれども伊丹直子さんの作品。伊丹さんは、以前に奨励賞や準グランプリを受賞されていますが、今回も力作を出品していて、最後まで受賞の議論になりました。さらに上を目指して頑張っていただきたいと思います。
それから、水琴鞘さん、Ogra Kentaroさん、はぎのゆりこさん、 原田史郎さんなどのチャレンジが審査の最後まで話題となりました。
受賞されなかった方のなかには、残念な気持ちを抱いておられる方もいると思います。しかし、賞を逃したことで受賞以上の制作のエネルギーを得る人もいます。昨年、文学者の太宰治が芥川賞の選考委員に送った4メートルにおよぶ長い手紙が発見され、話題となりました。自分には絶対芥川賞が必要だということが書かれていました。太宰の場合、結局受賞を逃したのですが、そのことによってエネルギーを得て、次の制作に繋げていきました。賞を逃したことが、彼の文学をつくったといえるのかもしれません。
そういうことで受賞された方も受賞されなかった方もさらにチャレンジを続けていってほしいと願っています。以上です。ありがとうございました。







