もちろん、作品は一直線に展開するものでもありません。76年のアート・ナウ'76(兵庫県立近代美術館)や77年の第8回国際タピスリービエンナーレ展(ローザンヌ、スイス)には、赤い糸を編んで巨大な柱状に吊り下げた作品(図4)を出品しています。以前からの編みの技法による作品ですが、空間への意識が強く感じられます。
そして80年には2つの直線を旋回する作品が現れます(図5)。重力により曲線を描いて下がる糸が空間に展開したのです。81年の個展には、支持体となる並行に入った2本のロープを四隅で支えた<White Square>が発表されます(図6)。82年の個展で、それがハンモック状に長く伸びた<White Boat>となり、形態的にひとつの完成を見せます(図7)。濱谷はこの<White Boat>シリーズの作品で84年の近代建築におけるテキスタイルアート展(フランクフルト、ドイツ)でグランプリを受賞します。さらに86年の個展では、<White Boat>の2本の支えが、弧を水平に描く金属製となります(図8)。これによって支えの弧のカーブに照応して、並んで垂れ下がる糸の底辺中央部(最も低くなるところ)の位置とそこに至る糸の曲線が決まることとなり、より明確に造形できるようになりました。
このようにして獲得された造形は、美術館や画廊だけでなく、2005年3月から6月にかけて金沢駅東広場もてなしドームに設置されたファイバーワーク・金沢ムーブ(図9)のように、多くのオフィスビルや公共建築などでも、建築空間を彩るアートワークスとしてその空間を表現しています。