師 川原康孝
二人の現役作家と共に、川原康孝さんの作品も出品します。川原さんは1928年、岩野さんと同じく三加茂町の出身。2000年に71歳で亡くなられました。1951年から68年までの間に県展の特選・準特選に10回選ばれた後、1971年以降は招待作家として出品を続けました。
この川原さんが、岩野さんにとっての美術の師なのです。岩野さんが幼い頃、県の西部は徳島市内に比べると、文化に接する機会は少なく、そんな時代に県西で唯一と言っていいくらい活躍していた画家が、川原さんだったと言います。また、自らアートスクールを開くことで、県西の様々な世代の人々にとってのアートに触れるきっかけを作った川原さんのことを思い、岩野さんもこの展覧会の会期中にロビーで様々な年齢の人々を対象にしたワークショップ「くもならべ」を開催します。
今回出品を予定している中には、1960年代の鉄道をモチーフとした川原さんの作品があります。岩野さんの思い出の中に、当時の徳島本線沿いの町の賑やかさと川原さんの作品が結びついているのです。しかし、これだけだと昔懐かしいという話に終わってしまいます。岩野さんは、川原さんとその作品へのオマージュとして貨車のオブジェを制作するのです。そして、その中には、かつて賑やかだった頃の県西部、徳島本線沿いの写真と現在の徳島本線の写真が合わせて展示されます。後者の撮影をするのが、徳島在住の写真家、森宮英文さんです。それでは、森宮さんのプロフィールを紹介しましょう。
森宮さんは1956年、徳島市の出身。1980年に同志社大学文学部を卒業後、出版社勤務を経て81年に写真の個人事務所を立ち上げました。1980年代末より関西と徳島の画廊で個展を開催している他、現代アート作品の撮影も行っています。岩野さんとの出会いもお互い現代アートに関わってきた中で生まれたものです。森宮さんにはこの展覧会の広報物や記録集用写真の撮影も依頼しています。
おわりに
今まで見てきたように、「徳島再見」をテーマとして、様々な現代アートの作品が出品される予定になっています。現代アートと言えば、どこかとっつきにくいような印象が持たれがちです。しかし、「徳島」という言葉を手がかりにすることによって、作品に親しむきっかけになればと思います。と同時に、作品がモチーフしている場所を訪れるきっかけとなり、皆さんそれぞれにそこにある魅力に気づいてもらいたい。これは岩野さんの願いでもあるのです。
(主任学芸員 吉川 神津夫)
(徳島県立近代美術館ニュース No.64 掲載)