秋岡美帆(1952年兵庫県生まれ)もアトリエを大阪から三重県の山あいの町に移しています。彼女の作品は、森の木々や木もれ日を、スロー・シャッターのカメラで捉え、それをネコ(NECO)という特殊な装置を使って和紙に拡大するものです。以前は、大阪・池田市にある大きな楠をモチーフ(題材)にしていましたが、近年は、一本の樹木から木々の連なる森へと分け入り、新しいイメージを求めています。風によって揺れる枝の動きと、カメラを持つ手の動きが一体となってつくられる、明るい緑と空の青さがまじりあった作品や、森の奥の神秘的な光を捉えた作品は、アトリエ近くの山のなかで生まれました。それらは、人為と無為が重なりあった表現ともいえるでしょう。出品作は、「ひかりの間(あはひ)」と名づけられたシリーズの最新作です。
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出品作家は、「日本画」や「洋画」の分野で語られる人、それらの区分に入らない人もいます。確かに制作の方法や個性は違いますが、共通するのは、テレビの映像のような間接的な情報で自然を捉えるのではなく、自然のなかに身を置き、五感で感じようとしていることです。植物の日々の表情や微妙な四季の変化を体験するには、それなりの時間が必要なのです。自然を突き放して見るのではなく、作家としての自分も自然の一部であり、そのなかで生き、制作しようとする共通した姿勢も伝わってくるように思います。現代の人々がどこかに置き忘れてしまった自然に対する見方(自然観)を思い出させてくれるところがあるのです。
日本の古い文化や芸術のなかには、現代に生かすことのできる大事な要素が含まれています。彼らの作品は、その要素を取り入れようとする模索の成果ということもできるでしょう。
かつて日本の美術は、制作する人も、作品を見る人も、お互いによく知る自然の姿や自然観を基礎にしてきたところがありました。自然は、作家だけでなく、作品と観賞する人も結びつけてきたのです。この展覧会を観賞することが、自然と人との関わりや自然と文化のあり方を見つめ直す、きっかけの一つとなることを願っています。
(主任学芸員 森 芳功) 「徳島県立近代美術館ニュース 40」
(2002年1月号)より転載
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