3 社交・観劇
19世紀、パリは凱旋門を中心に放射状にのびる都市として整備されていきます。そして、世紀末から20世紀をまたぐ時期になると、産業の発展や大衆消費の増大といった社会状況を背景に、舞台をそなえたカフェやキャバレー、サーカス小屋などが多く誕生し、娯楽や社交文化が盛えます。この活気にあふれ、楽しく享楽的だった時代は、「ベル・エポック(美しき時代)」と呼ばれています。 トゥールーズ=ロートレック(1864-1901年)は、パリのモンマルトル界隈を拠点として、機知とユーモアに富んだ都会的なセンスで時代の空気を素早くとらえ、ベル・エポックを体現した人気画家です。
〈ディヴァン・ジャポネ(日本の長椅子)〉は、同名の有名なキャバレーのポスターです。黒い扇子に黒いドレスの踊り子ジャヌ・アヴリルと批評家エドゥワール・デュジャルダン。舞台には黒手袋がトレード・マークの歌姫イヴェット・ギルベールがいます。盛り場で夜な夜な繰り広げられた人間模様を彷彿とさせるようです。また、演奏が続くオーケストラ・ボックスが画面を斜めに横切る構図や、陰影のない平坦な色面、浅い奥行きなど、浮世絵の影響も強く見られます。
【図版】 アンリ・トゥールズ・ロートレック 〈ル・ディヴァン・ジャポネ〉 1893年 宮城県美術館蔵
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オペラやキャバレーなどのポスターも人々のあこがれを誘いましたが、それ以上に庶民の日常生活に密着していたのは、各種の商品広告ポスターだったのではないでしょうか。パンやミネラル・ウォーターなどの基本的な食品から、ちょっと贅沢でささやかな夢をかきたてる自転車やオートバイ、アルコール類などのポスター。それらは、大衆の目を引き、消費を大いに刺激し、働くだけではなく、余暇や趣味も楽しむ近代的な生活スタイルを提案していったのです。
また、ベル・エポック期のポスターといえばフランス・パリというのが定番ですが、「三浦コレクション」にはイタリアのものが多数含まれているのも見どころです。パリの「シェレット」の華やかさと比べると、落ち着いた一種の質実さ、素朴さも感じます。
【右図版】 カミーユ・ブーシェ 〈コニャック「ジャケ」〉 1900年 宮城県美術館蔵
【左図版】 作者不詳 〈純良パン〉 制作年不詳 宮城県美術館蔵
【左図版】 作者不詳 〈純良パン〉 制作年不詳 宮城県美術館蔵