徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
着衣のポモナ
1921年
ブロンズ
181.0×61.0×48.0
アリスティード・マイヨール (1861-1944)
生地:フランス
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マイヨール着衣のポモナ
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所蔵作品選1995 徳島新聞連載1990-91

アリスティード・マイヨール 「着衣のポモナ」

友井伸一

 むかし、まだ神々が天上と地上を行き来し、森には多くのニンフ(精霊)たちが棲んでいたころの話です。ポモナはそんなニンフたちの一人でした。草花や果物を育てることが得意で、とりわけおいしいリンゴのなる果樹園で働くことがなによりの楽しみです。そんな彼女を手に入れようと、多くの神々が競い合いますが、ポモナは果樹園に鍵をかけて、誰も中に入れようとはしません。それでもくじけながったのは四季の神ウェルトウムヌスでした。彼はおばあさんの姿になって、かなわぬ恋を訴え、ついにその想いは遂げられるのです。
 豊満な女性がリンゴを手に持ち、静かに、堂々と立っています。この作品は、まさしく、下心を持って言い寄る神々を寄せ付けなかったポモナの姿です。
 1852年生まれのマイヨールは、20世紀美術を推進したピカソたちよりも前の世代に当たります。その表現は具象的ですが、そこには、彫刻を20世紀の抽象や構成的な表現へと切り開く端緒が見られます。
 彼の制作方法は、たとえばロダンのように、まず最初にモデルのポーズや動きをとらえ、モデルの周囲を何度も回りながら、その無数の輪郭線を納得の行くまで拾い上げ、洗練させていくやり方とは一線を画しています。彼はモデルのポーズや動きよりも、肉体の構造や全体の均衡に関心を持ち、まず自らの心の中で構想を明確にしてからモデルに向かいました。そこには、あからさまに眼には見えないものの、あるときは四角形、あるときは三角形といった幾何学的な計画が立てられています。
 この作品で言うならば、全体がゆるやかな三角形、あるいは紡錘形の中に収まっています。このように全体の構成を重視しながら、微に入り細をうがつ写実的な表現は切り捨てて、内側から盛り上がるような、はちきれそうに充満する肉体の量感を表に打ち出しています。このように、マイヨールの彫刻は、具象的でありながらも抽象表現に結びつくような構想力を感じさせます。
 彼はその制作のほとんどを女性像にささげます。豊饒と繁栄の女神ポモナは、彼女を一途に愛し続けたウェルトウムヌスと同様にマイヨールにとっても理想の女性だったのかも知れません。
徳島県立近代美術館ニュース No.26 Jul.1998 所蔵作品紹介
1998年6月
徳島県立近代美術館 友井伸一