[様々な語りから] 教育担当からのレポート 2010

 2010年度は当館と文化の森総合公園のオープン20周年にあたる年で、様々なイベントが行われました。当館でも20周年記念展「名品ベスト100」を軸に、記念の年らしいにぎわい作りにつとめました。結果、様々な方の語りに次から次へと魅了された一年だったように思います。

 トップバッターは編集者都築響一さん。「堀内誠一 旅と絵本とデザインと」展の特別対談として長女の堀内花子さんと登壇いただき、往年の編集・デザインに関する尽きることのない話に、百人を越える聴衆が聞きひたりました。「あんな雑誌の作り方は今はもうできない」と、ちょっと寂しい都築さんの発言が胸に残ります。花子さんの幼少時代の父親像もどこかほろ苦い思いを誘いました。

 二つめの特別展は「濱谷明夫 藍と造形」。一本の糸から生み出される大空間のモダンな造形と、初めての藍とのコラボレーションについて、作家本人によるギャラリートークとレクチャーがありました。ギャラリートークには染師の村上千晶さんも参加してくださいました。

 三つめの特別展が「名品ベスト100」です。春先からプレイベントとして作品の投票を募集し、特別に収蔵庫を案内するツアーも3回行いました。投票の結果は「ベスト20」として展示や図録に紹介しましたが、投票用紙には感想や絵と出会った気持ちのきらめきなどがつづられていて、お客さまの語りに触れさせていただく好機となりました。

 その他にも8名の学芸員が手分けして催しを企画しました。通常の展示解説に加え、現代美術担当の吉原さんと吉川さんまた彫刻担当の安達さんが話題を絞って語った「ポイント解説」。/美術館のオープン時から委員の立場で見守ってきてくださった河崎良行さん(徳島大学名誉教授)と西田威汎さん(鳴門教育大学教授)に江川学芸課長がお話をおうかがいする、「ゲスト&学芸員トーク」。/当館の鑑賞教育を長期にわたり支援いただいている山木朝彦さん(鳴門教育大学教授)と仲田さんがロビーで討論会風のシーンを繰り広げた「くりえいてぃぶ鑑賞のすすめ」。/また展覧会担当の森さんは話題の映画「ハーブ&ドロシー」を上映しコレクションについて語りました。

 語りと言えば、作品解説と演奏のコンビネーションを試みた友井さんの「ギャラリートーク&ミュージック」はいいムードで「語るミュージアム」を演出していました。川人雅音さんやいとう優歌さんの語りには美術館という場への思いが込められていました。川人さん、粟田美佐さんの演奏にからむ高島由里さんの朗読は熱い喝采を浴びました。/アーティストの語りが光ったのはワークショップ「近美でモシャシマショ」の鈴木良治さんです。「うーん、こう描いたと思うんだけどなあ。」と、作品誕生の現場をほうふつとさせました。アーティストの技法を参考に描かれた「模写」は、シンボル広場に展示されました。その風景は広場を歩く人たちの様々な会話の中に溶け込んでいったことでしょう。/また「美術を楽しむ・わたくし流」に登場したユーゴウ団は、音楽と朗読のパフォーマンスに学芸員の作品解説文を活用した実験作を披露しました。

 ところで20周年ということで文化の森全体が夏にはサマーフェスティバル、秋には大秋祭りの期間を設けました。ボランティアグループ「ビボラボ」を中心とした催しが美術館の「祭り」を担当してくれました。

 さて年があけて2月には「あなたも美術鑑賞デビュー」と題して講演とワークショップを行いました。今年度、文化庁の支援事業に採択された「鑑賞シートと美術館を活用する授業研究会」の一貫で、現職の教員の皆さんが展示室で講師役をつとめ「語り」の個性を発揮しました。/そして、先に触れた「くりえいてぃぶ鑑賞のすすめ」の参加者の皆さんに協力いただき、展示室で留学生の授業が行われたこともご紹介しておきましょう。徳島大学国際センターの三隅友子教授との共同授業です。留学生によるアート・スピーチに、聴衆は熱く耳を傾け、コメントを手渡してくださいました。いろいろな立場の人がいつも会場で語り合っている、そんな美術館をこれから作っていくことができたらどんなにすばらしいでしょう。美術館の未来像がふと目の前をよぎるひとときでした。(※1)

(※1)この活動は次の研究紀要で報告しています。
竹内利夫・Gehrtz三隅友子「美術作品を通した学習の可能性―共通教育日本語『日本人への提言』を通して―」『徳島大学国際センター紀要』第6号 2011年3月31日


徳島県立近代美術館ニュース No.77 Apr.2011
2011年4月
徳島県立近代美術館 竹内利夫