森 芳功

Yoshinori Mori

近代美術館学芸交流課長


  


近代美術館の学芸交流課長の森です。2015年のチャレンジ芸術祭のときにはじめて審査員となり、今回で5回目となりました。おそらく私の審査はこれが最後になると思います。

昨日、展示部門の二次審査があり、いつものようにチャレンジをどのように捉えるのか、その難しさが語られました。小学生から高齢の方まで、あるいは作家経験を積んでいる方から制作をはじめたばかりの方まで、お一人お一人異なったチャレンジがあります。制作には、日々の暮らしはもちろんですが、大きくいえば人生とも関わっていますので、自身を問いつつ制作を続けること自体がチャレンジといえる面を含んでいます。審査にあたっては、そのようなお一人お一人のチャレンジを読み取るのが苦心するところですし、興味深いところといえます。

もう一点いつも考えるのは、チャレンジ芸術祭のパンフレットやチラシにも書かれている「徳島発未来のアーティスト発見 いくつになってもチャレンジ」という言葉です。そこには、徳島から全国的な評価を得る作家が出てくることが期待されています。全国、世界で高い評価を受けるためには、いうまでもなく、チャレンジの度合いだけでなく、多くの人にアピールする表現力が求められます。狭い範囲での評価に満足するのではなく、さまざまな面で質を高め、「チャレンジ」という視点がなくても高く評価される制作者の方が、もっともっと徳島から育っていってほしいと願っています。

では、いくつか出品作品に触れさせていただきます。尾田稔子(としこ)さんのグランプリ受賞作は、古釘や頭の透明な押しピンなどを使った作品です。身近にある素材によって、造形的なコンセプトの提示という側面よりも、人生をより強く感じさせる表現になっていると思いました。大小異なる錆びた古釘の集積からは、命に対する制作者の思いが感じられます。

奨励賞の早渕太亮(たいすけ)さんの作品は、錆びて朽ちていくトタンをシャープに整形し、そこに何気ない日常を表そうとする表現意図をうまく結びつけています。徳島に拠点を置き、精進し、いま以上に作家活動を進めることを願っています。

同じくチャレンジ奨励賞を受賞された亀井俊治(としはる)さんの作品は、ご自身が薬を飲み続けてきた時間の積み重ねを視覚化させた強いテーマが表されています。しかし、インスタレーションとしてもう少し工夫できなかったのかと思いました。つめの部分で、もっと表現を煮詰める必要があると感じます。

サクラ ヨシさんの作品は、おおらかな銅版画の線で山の稜線を描き、そこに彩色を加えていくのですが、同じ場所で見られる異なる季節のようす、天候の違いが連作として表されています。その方法はさまざまに展開できる可能性があると感じました。

峯菜実子(みね なみこ)さんは、パンフレットに「子供の頃から想像力で頭がパンクしそうになる」と書いています。その表現の衝動を大切にし、もっと技術を磨き、描き続けてほしいと思います。

油彩画を描いているイクラさんは、17歳とのこと。いい絵をたくさん見て、表現力を高め、テーマを深める時間があります。あせらず、長い目をもって努力を続けてほしいと思います。 時間の関係で、あまり触れることができませんでした・・

展覧会という場を考えるなら、制作する人だけでなく、観る人誰もがそれぞれの日常のなかで試行錯誤を繰り返し、日々チャレンジしていることに想いが広がります。そのような共感や想像が響き合い、よい刺激となって出品者の方々のさらなるチャレンジにつながることを願っています。ありがとうございました。