佐藤 陽香

Youko Sato

徳島新聞社

経済部 記者


  


審査員を務めさせていただいた、徳島新聞の佐藤と申します。
全出演者の皆様、本当に素敵なパフォーマンスをありがとうございました。
その中から受賞された皆様、本当におめでとうございました。
私が審査を務めさせていただくようになって、はや5年となります。
かつて審査員の一人が「異種格闘技戦」と例えたような、
ジャンルも年齢も問わずこの空間を自由に使うという何でもありの珍しいイベントに、
ここまで携わることができて、本当に喜びしかありません。
私自身の経験や好みもありますが、皆様に一言ずつ添えさせていただきたいと思います。


まずグランプリの「匿名A」さん。
本日この場にいらっしゃらないことが、本当に残念でならないんですが…。
審査時にメモを取っていたんですが、
メモのために視線を離すことさえ惜しいと感じるようなパフォーマンスでした。
フラッグのなびかせ方、体の動かし方、テンポの切り替え、道具の持ち替えのタイミング…。
全てを美しいと感じました。世界観の構築力がずば抜けていましたね。
指先や髪の先、さらにはフラッグの先まで神経が行き渡っているような印象です。
視線のやり方も素晴らしかったです。
赤い布を抱きしめるような演出のところでは、少しウルっと涙ぐんでしまうほどでした。
パフォーマンス後のインタビューでは、
「カラーガードの先生になって徳島に広めたい」とのことだったので、
その姿を拝見できること、今から楽しみにしております。おめでとうございます。

それから準グランプリの「阿波高校ダンス部2年」の皆さん、おめでとうございます。
ゾンビ、いいですね。
ストーリーも分かりやすいし、衣装もメイクも素敵でした。
ストーリーの流れでは、唯一感染してなかった人間の女の子が囲まれて、
襲われて仲間入りしてしまって、途中ではちょっとコメディになって。
USJで見られるハロウィンイベントのような雰囲気も感じられましたね。
曲に「スリラー」がかかった瞬間に「いいね、わかってるね」と、自分一人ですごく受けていました。
ゾンビのメンバーを踏み台にしてジャンプする演出も格好いいですし。
最後は感染していた女の子に少しだけ人間の自我が残っていたんでしょうか、
銃で周囲のゾンビを倒して、自害するというラストも個人的に良かった。
入退場や隊列を組み変える時もゾンビの動きをしていたのも、ポイントが高かったです。
ゾンビ物というと、テーマも動きも定番のものになってくるかもしれませんが、
そういう"ド"が付く定番の物を、いかに自分たちなりにアレンジして、
分かりやすくかつ面白く見せていくかという点において、非常に好印象を受けました。
おめでとうございます。

その意味では、「阿波高校ダンス部1年」の皆さんもとても素敵に感じました。
ピエロというテーマに合わせた振り付けですね。
マリオネット風だったり、パントマイム風だったり、ロボット風だったり、バレエ風だったり、
いろいろな要素を組み込んで、さまざまなピエロの表現を見せてくれました。
練習を頑張ったことをうかがわせる、かつ楽しんでいるのがとても良くわかるパフォーマンスでした。

チャレンジ奨励賞の「Jugger A→G」さん、おめでとうございます。
「人に見せる」ということを、大道芸の方はよく意識しているという印象を受けました。
言葉がなくても伝わってくるストーリーがありますね。
パントマイムは何をやっているか一目で分かる。
特に私が好きなのは、ブルーのクリスタルを使って見せた、ボールハンドリングです。
難しいことをサラッとやってのけている姿が印象に残っています。
また、オレンジのボール2つを片手でハンドリングしながら道具を持ち替えていました。
個人的には、そういう間をつなぐ場面も非常にサラッとやっているのがいいなと思いました。
加藤さんも仰っていたんですが「(演出上、パフォーマンス中の)拍手はダメ」と
言われていても、途中でやっぱり拍手したいとなってしまうような、
ある意味困ってしまう、実力のあるパフォーマンスを見せてくれました。

それから、同じジャグリング仲間の方なんでしょうか。
「シルク・ドゥ・ジョングール」さんも個人的には押したい1組です。
PRコメントには「あらゆる大道芸と笑いを詰め込んだ飽きない15分間」とありました。
そのコメント通り、漫才、ボケがとても多くて楽しかったです。
最後にカラーテープを口から吐き出しながら退場するところまで良かったです。
すごく伸びしろを感じましたので、もっと磨き上げて、より高みに行ってくれることを願っております。

もう一つのチャレンジ奨励賞、「勝浦お手玉演舞の会」さん、おめでとうございます。
いくつになっても、どんな人でも、どんな分野でもチャレンジという…。
この芸術祭のテーマを、まさに体現してくださいました。
お手玉を投げる高さやタイミングを、あれだけ合わせるのは本当に大変だったと思います。
一生懸命さが本当に伝わてきました。
皆様が真顔でパフォーマンスしているところも、かえってすごく一生懸命な感じが伝わってきました。
どんどん仲間の方を増やして続けていっていただきたいと思います。
おめでとうございます。

MIP賞の「カツオブシマシーン」さんもおめでとうございます。
私も感慨深いです。
毎回、挑戦と上達を繰り返し見せてくださっている1組だなと思っておりました。
技術もさることながら、お互いが演奏を楽しみ、セッションを楽しみ、
それを伝えてくれるという姿勢が強く印象に残りました。
耳馴染みのある曲のアレンジも楽しいし、アレンジのバリエーションも増えているし、
曲のつなぎ目も上手くて飽きなくなってきていて。
個人的には2人のアイコンタクトがたくさんあったことが高ポイントでした。
とても素敵でのびのびしたパフォーマンスを見せてくださいました。
最後にピアノの戸田さんが、「弾ききった!」というポーズをしたのがすごく微笑ましかったです。
おめでとうございます。

ここからは出演順に。
まず「GyuU&Dachs」さんは、導入の柔軟体操で会場に一体感を生んでくださいました。
「1度しか着ていない衣装が勿体なくて出演を決めた」ということでしたが、
芸術祭で2回目を使ってくださったので、ぜひ3回目、4回目と使って挑戦を続けてください。

次に「藤田春」さん、この方も70歳にして常連となるほど出演し、
すなわちチャレンジを続けてくださっている方です。
今回も味わい深い歌声を聞かせてくださいました。
「♪ときめきくれたあの人は 青春の面影」「電話の声から伝わる温もり 僕に届いた故郷便り」
…と、変わった言葉遣いではないんですけど、ストレートに情景が想像できるものばかりで、
噛むほどに味が出るスルメのようなパフォーマンスでした、ありがとうございました。

続きまして「ときめきダンスカンパニー四国」は、本当に身体表現の能力が高いですね。
中学3年生と若い2人ですが、子供と大人の間だからこそ出来るような、表情や感情表現があったように思います。
コンテンポラリーで2人の衝突、絡みあい、複雑な思いのやり取りを見て取ることができました。
レベルが高いからこそ上を要求したくなるところがあります。
ぜひあと一押し、全部踊り切るためのスタミナと精神力をつけて、指先への意識を最後まで保てるように
なってください。
もっと素敵になったお二人というか、(以前に出演してくれたメンバー含む)皆さんを
お待ちしております。今後も期待しております。

こちらも常連になりました「山口和也」さん。
時々マイクの音声が途切れてしまって、勿体なかったんですけれど。
歌唱力がすごく伸びていました。
実話をもとに過去の思いを昇華させるために作ったストーリーとのことでしたが、
自分の気持ちをダイレクトに伝えて下さる山口さんらしさの表れだと思いました。

「プランB」さん。
似た年齢でグループを組む方が多い中、年代に幅があるチャレンジのチームです。
個人の良さを活かしていってほしいというのもありますが、
時間はやはりたくさん使ってほしいですね。
フォーメーションも変えたりしつつ、さらに全力でドーンとぶつかって来てくださるとうれしいです。

「ときめきGOLD」さんは芸術祭のパフォーマンス史上で、
おそらく最大のセットだったのではないでしょうか。
すごいなと見上げることしか出来なかったんですけども、
皆さんの衣装、ステージ背後にある青と白のセット、白い床や壁の空間と合わせ、
とても映えて美しかったです。
見ていたら、「人は花、花は人、世は緑」といった言葉が脳に浮かんでくるような、
空間全体を使ったパフォーマンスでした。
演技中にどんどん使うスペースを広げていく様子に、木の成長も感じられて、
人も木も自然の中で最終的に一体となっていくという光景が見えました。素敵でした。

音楽と朗読とパペットを組み合わせました「タルト・タタン」さんは、
しっかりとした実力に基づいて、全体をまとめ上げている、バランスが特に良い1組でした。
場面にあったピアノBGMに金魚3匹を1人で演じ分ける声も、
パペット2つとご自分の衣装で金魚3匹という表現方法もとても素敵でした。

「いとう優歌」さんは、アコースティックギターに文化の森周辺で収録したパフォーマンス。
車の走行音や川のせせらぎ、鳥の鳴き声、ページをめくる音など、
耳馴染みがいいと感じるのに新鮮な、不思議な印象を受けました。
かしこまってコンサート会場で聞くというより、
例えば洗濯物を干している時や料理している時のような、
生活の中、暮らしの場面の中で聞いていたい音でした。

「斉藤尞さん・劇団オヒトリさま」は、
即興の詩の大会、詩のボクシングにも出場されたこともあるということ。
生きている一人の人間の形をそのまま独白で表現してくださったようなパフォーマンスでしたね。
以前も今回も、一緒に出られる共演者が急遽出られなくなって1人で出演されたと
お聞きしていますが、独自の世界観は1人だからこそ出せるのではないかとも思いました。

続きまして「徳島市立高校ダンス部」の皆さんは、本当にいつでも華やかで楽しいですね。
曲数も衣装数も、場面転換なども本当に流石です。
今回はハイスクールミュージカルということで、
個人的にはアメリカに憧れた日本の女子高生のダンスという印象を受けました。
全体的にぐいぐい引き込んでくれるようなメリハリがあってほしかった気もします。
最後のカーテンコールではすごく楽しくなって、わーっと拍手したくなりました。
宮本部長が「一度しかない人生の中でもっとも輝いている高校生活を表現したかった」と
インタビューでお話ししていました。
これからも輝く生活を送って素敵なダンスの糧、人生の糧にしていってください。

ヒップホップダンス「CHARME」のお二人は、お子さんが独り立ちされてから始めたという
お母さんダンサー。これもチャレンジです。
お二人それぞれに見せ場があって息の合った掛け合いが良かったと思います。
次はぜひ1曲だけではなくて、2曲3曲と見せてくれることを期待しております。

最後のまとめに入らせていただきます。
パフォーマンスというのは自己表現であり、情熱であり、芸術であり、エンターテインメントだと思います。
そこには技術や表現力、構成があったり、積み重ねてきた努力があったり、
そして挑戦というものがあるんだと思います。
毎回この場所で「自分とはこうなんだ」「自分達ってこうなんだ」というふうに、
全力でぶつかってきてくださる出演者の皆さんに出会えて、本当に審査員冥利に尽きます。
自分の中に伝えたいこと、表現したいことがある。
それを喜んで、時には苦しんで全力で伝えようともがくならば、
どんな形であったとしてもそれは人に届くし、人の心を動かすんだと思います。
伝えるという行動は誰もが自由にできること。
その場所と機会を提供し、ちょっとお手伝いできたらというのが、この芸術祭であってほしいなと思います。
どうかありったけの自分、ありったけの皆さんを伝えてくれる瞬間が
来年も再来年もその次も、この場所でありますようにと、心から願っております。
そしてここから羽ばたいていき、また別の場所で自分を表現する皆様に会えますことを願っております。
ありがとうございました。