》 フランス近代絵画をめぐる旅 2 《

印象派

クロード・モネ
<エトルタの波の印象>
1885年

 モネの<エトルタの波の印象>(1885年)は、セーヌ川河口のル・アーヴルの北に位置するエトルタの海岸を描いています。モネが好んで何度も描いた断崖の風景です。一見してぼんやりと輪郭がはっきりしていません。ここでのポイントは色であり空気感です。風景は刻一刻と変化します。それを、そのまますばやく捉えようとした結果なのです。

 おおざっぱに言うと、かつての風景画は、スケッチ程度は屋外で行うことがあっても、基本的にはアトリエで仕上げていました。きちんとかたどり、陰影をつけ遠近法を守って、古典的で標準とされる規準に従い理想化されて描かれていたのです。

 しかし、私達が現実に眼にしているのは、理想化された姿ではありません。そこで印象派の画家たちは、そんな規準には従わず、見えるがままの光や揺れ動く自然の姿を描こうとしたのです。ルノワールや、ピサロ、シスレーなどの作品の、水や植物、人間の肌の色は、緑、青、赤などがあまり混色されずに塗られています。混ぜることによる色の濁りをさけ、明るさを獲得しました。また、すばやく豊かな筆触も特徴となっています。

ポンタヴァン派・ナビ派

 ゴーギャンに影響を受けた若手作家の集まりです。印象派同様に色彩を重視しましたが、その特徴は、色の点や筆触ではなく、色の面で構成することにあります。

エドゥアール・ヴュイヤール
<フレシネ夫人>
1934年頃

 出品作品には印象派との区別がつきにくい作品も少なくありませんが、たとえばドニの<赤いベッドに横たわる裸婦>(1898年)は、赤い色面が画面全体を圧倒的に支配しています。それは装飾的であると同時に、赤に込められた象徴的な意味を示唆するかのようです。実際には、これほど真っ赤な寝室は考えにくく、まずありえない光景なのかも知れません。しかし、それは画家の心の中には確かに存在する現実なのです。

 また、ヴュイヤールの<フレシネ夫人>は、奥行きの少ない平面的な面の配置によって画面が構成されており、背景の水墨画のような鳥のモチーフとともに、日本の影響(ジャポニスム)を思わせます。西洋にない空間構成が取り入れられています。

点描派

ポール・シニャック
<サン・トロペの港>
1923年

 シニャックらがおこなった点描とは、印象派が色を混ぜずに描いた方法を徹底し、捕色関係などの科学的な色彩理論を応用しながら、色をそのまま画面に置いていく方法です。光を分光すると、光の色は波長の順に分かれてならびます。キャンバスに置かれた色の点は、いわばこの光のスペクトルのようなものです。そして色の点を光の場合と同様に、人間の眼の網膜の上で混ぜ合わせようという、それは画期的な方法論でした。そこでは絵の具の色の明るさは減じることがありません。この考え方は、現在ではカラー印刷の原理にもつながっています。

 シニャックの<サン・トロペの港>(1923年)に見られる色の点の形は、やや大ぶりの長方形で、全体に力強さと明快さが感じられます。


※図版の作品は、すべて松岡美術館所蔵です。
※画像の無断コピーは、法律で禁じられています。

<< 前へ | 次へ >>


目次
》 フランス近代絵画をめぐる旅 《
1  セーヌ川、ブルターニュ、そして南仏
 近代美術
2 印象派
 ポンタヴァン派・ナビ派
 点描派
3  フォーヴィスム
 キュビスム
 エコール・ド・パリ
4  松岡美術館のコレクション、その楽しみ方

フランス近代絵画展トップページ


美術館TOP よみもの

Copyright:徳島県立近代美術館.2003