4.「和紙」と「日本画」の新たな関係-戦後
戦後(第二次世界大戦後)の「日本画」は、そのほとんどが紙の上に描かれるようになり、歴史的な紙の隆盛期を迎えます。しかも紙の表面が見えないくらい絵具を塗り重ねるのが主流となっています。本展では、そのようななかでも比較的薄く絵具を使った表現を軸にして見てみようと思っています。
堅山南風、安田靫彦ら日本美術院の画家たちは越前の麻紙を用いています。吉田善彦は土佐で漉かれた薄い雁皮紙を用い、紙の裏表から描く技法を追求しました。
またこのコーナーでは、小松均の大作〈雪の最上川〉(1975年)や加山又造の屏風もご覧いただきます。
5.現代における「和紙」の探求
現代の日本画では、約10人の作家の方にご出品いただく予定です。高山辰雄は、近年手織りの絹に描くなど伝統の多様性を見直そうとしていますが、そのような関心のなかで描かれた和紙の表現をご覧いただきます。華岳を受け継ぐように独自の紙の探求を重ねてきた下保昭は、最新の試みの一つである〈彩雲暁粧〉(2006年)を出品。宮廻正明は、美濃紙(岐阜県)による繊細な農村風景をご紹介します。
その他、竹内浩一は、夜の雨のなかを泳ぐ鯰たちの姿を現した〈夜さめ〉(2007年)、中野嘉之は水墨も用いて、天と地の間を示す雄大で力強い風景画を、大野俊明は、繊細な色彩による琵琶湖の風景画などを出品します。そして、斎藤典彦は、桜の花で染めた紙を用いた抽象的な心象風景も紹介。森山知己は、やわらかな色彩の瀬戸内風景〈瀬戸内残春〉(2006年)を出品する予定です。この5人は、阿波和紙(徳島県)による新作もご紹介します。
彼らが用いている紙は、越前麻紙(福井県)、大濱紙(出品作品のものは高知県)や、中国安徽省で漉かれた紙などさまざまですが、どの方も、古いもののよさを見直そうとするなかで個々の紙を選び表現していることに注目したいと思っています。
おわりに
いまの日本画の多くは紙に描かれていますので、紙は、今と昔を比べて楽しんだり考えたりできる格好の素材です。古いもののなかにある可能性や、新しい表現に活かせるヒントが隠れているかもしれません。多くの方々に和紙と日本の絵画のつくりだす魅力をお楽しみいただけたらと思っています。
(専門学芸員 森 芳功)
(徳島県立近代美術館ニュース No.63 掲載)