ご来館下さったお客様から、このようなご質問をいただくことがあります。何回も所蔵品展をご覧くださっているお客様は、それぞれ自分のお気に入りの作品を見つけておられるようです。また、ピカソやクレー、レジェなどの作品は、全国の美術館ガイドにも載っていますので、これを目当てにお越しくださるお客様も少なくありません。
では、展示室から消えた作品はどこへ行ってしまったのでしょうか。可能性は、次の3つが考えられます。
ひとつは、展示替えのため収蔵庫に戻されていることです。この可能性が一番大きいはずです。所蔵品展というと、どうしてもいつも同じものを展示してあるような印象があります。しかし近代美術館では、年4回全面的に作品を入れ替え、版画や水彩画などはもっと頻繁に作品を入れ替えています。
展示室の中は、一年を通してほほ同じ湿度と温度に保たれています。ですから温度や湿度が原因で作品が傷むという心配は、まずありません。しかし光による退色という問題は、いくら照明を暗くしてもつきまといます。美術品は文化財です。私たちの世代だけで消費してしまうことは許されないはずです。10年後、 20年後、さらにいえば100年後、200年後の人たちにも楽しんでもらえるよう、近代美術館では、材料や技法に応じて展示日数の制限を設けているのです。
次に考えられるのが、他の美術館が開催している展覧会に貸し出されていることです。近代美術館では、所蔵作品展と並行して年5回「特別展」を開催しています。一人の作家を取り上げたり、ある時代の美術潮流に焦点をあてるなど、その都度特別のテーマを立て、テーマにあった作品や資料を他の美術館やご所蔵家からお借りして展示します。それと同じように、日本だけでなく世界中の美術館が特別展を開催しています。いわば世界中の美術館は、お互いに助け合って活動しているのです。
ですから近代美術館では、特別の事情がない限り、他の美術館の要請にお応えするようにしています。昨年度についていえば、内外の美術館に合計40点の作品をお貸ししました。もちろんその展覧会の意義や、作品の輸送、展示の条件がどうなっているかなどを、厳しくチェックしていることはいうまでもありません。
最後に考えられるのは、非常に稀なケースですが、修復中だということです。美術館に入ってくる作品は、すべてが完壁な状態だとは限りません。特に作家の遺族や個人のコレクターが持っていた作品によくあることですが、画面に汚れが付着していたり、絵具層の剥落がはじまっていたりすることがあります。それでもその作品がかけがえのない作品であり、なおかつ修復可能だと判断した場合は、傷みを承知で収蔵することがあります。このような作品は、新年度早々のお披露目を終えると、さっそく修復作業に取りかかることになります。
せっかくお越しいただいたお客様には、ご迷惑をおかけすることがあるかもしれません。しかし美術館には、作品をご覧いただくということと、後世に伝えていくという矛眉した役割があることを、どうかご理解いただけたらと思います。
徳島県立近代美術館ニュース No.42 Jul.2002
2002年6月
徳島県立近代美術館 江川佳秀
では、展示室から消えた作品はどこへ行ってしまったのでしょうか。可能性は、次の3つが考えられます。
ひとつは、展示替えのため収蔵庫に戻されていることです。この可能性が一番大きいはずです。所蔵品展というと、どうしてもいつも同じものを展示してあるような印象があります。しかし近代美術館では、年4回全面的に作品を入れ替え、版画や水彩画などはもっと頻繁に作品を入れ替えています。
展示室の中は、一年を通してほほ同じ湿度と温度に保たれています。ですから温度や湿度が原因で作品が傷むという心配は、まずありません。しかし光による退色という問題は、いくら照明を暗くしてもつきまといます。美術品は文化財です。私たちの世代だけで消費してしまうことは許されないはずです。10年後、 20年後、さらにいえば100年後、200年後の人たちにも楽しんでもらえるよう、近代美術館では、材料や技法に応じて展示日数の制限を設けているのです。
次に考えられるのが、他の美術館が開催している展覧会に貸し出されていることです。近代美術館では、所蔵作品展と並行して年5回「特別展」を開催しています。一人の作家を取り上げたり、ある時代の美術潮流に焦点をあてるなど、その都度特別のテーマを立て、テーマにあった作品や資料を他の美術館やご所蔵家からお借りして展示します。それと同じように、日本だけでなく世界中の美術館が特別展を開催しています。いわば世界中の美術館は、お互いに助け合って活動しているのです。
ですから近代美術館では、特別の事情がない限り、他の美術館の要請にお応えするようにしています。昨年度についていえば、内外の美術館に合計40点の作品をお貸ししました。もちろんその展覧会の意義や、作品の輸送、展示の条件がどうなっているかなどを、厳しくチェックしていることはいうまでもありません。
最後に考えられるのは、非常に稀なケースですが、修復中だということです。美術館に入ってくる作品は、すべてが完壁な状態だとは限りません。特に作家の遺族や個人のコレクターが持っていた作品によくあることですが、画面に汚れが付着していたり、絵具層の剥落がはじまっていたりすることがあります。それでもその作品がかけがえのない作品であり、なおかつ修復可能だと判断した場合は、傷みを承知で収蔵することがあります。このような作品は、新年度早々のお披露目を終えると、さっそく修復作業に取りかかることになります。
せっかくお越しいただいたお客様には、ご迷惑をおかけすることがあるかもしれません。しかし美術館には、作品をご覧いただくということと、後世に伝えていくという矛眉した役割があることを、どうかご理解いただけたらと思います。
徳島県立近代美術館ニュース No.42 Jul.2002
2002年6月
徳島県立近代美術館 江川佳秀