[展示小話] 彫刻の地震対策

109-1.jpg写真1

109-2.jpg写真2

 平成16年は、台風に地震と災厄に見舞われた年でありました。特に10月23日に起きた新潟県中越地震は、平成7年の阪神淡路大震災、今世紀前半にも起きるといわれる東南海・南海地震などのこともあり、我が身のこととして様々なことを考えさせられました。

 阪神淡路大震災の際、特に大きな衝撃を受けた1枚の被害写真があります。それはある博物館の1階ホールの様子を写したもので、台座上に展示されていた人物像の彫刻が床に落ちて転げているところが写っていました。

 地震の揺れで彫刻作品が落ちた。このように書くと、ビルが倒壊したような他の被害の甚大さに比べて、とても小さなことに思えます。しかし、彫刻作品は、物体としては大きな重たいものなのです。この作品は高さが2メートルを超す大きな像です。もし、これが開館中に地震が発生して観覧者の上に倒れたら、人を押し潰す危険性は充分にあります。また、避難路を塞いでしまうかもしれません。作品が凶器、障害物となるわけです。彫刻の地震対策は、作品の保全のみならず、観覧者の安全確保のためにも重要なことなのです。

 近代美術館でも、昨年の春、彫刻の地震対策として、免震台を1台導入して、所蔵作品を展示している展示室1と展示室2の間のロビーに設置しました。ここは、館内から屋外展示場への避難経路となるところです。写真1の平たい台がそれです。変わった台座だなと思われていた方もあるかもしれません。小型の彫刻については耐震仕様の彫刻台を使用することで地震対策をしてきましたが、マイヨールの〈着衣のポモナ〉やミロの〈人物〉のような縦長の大型作品に対しても、ささやかではありますが、対策をとることができました。

 ここで、免震と耐震という二つの用語がでてきました。免震は揺れからのがれようとする方法、耐震は揺れに耐えようとする方法です。導入した免震台は、地震の際には、摩擦を利用した仕掛けによって水平方向の動きの力を減じて、床が激しく揺れても作品に大きな横向きの動きが生じないようにするものです。阪神淡路大震災級の揺れに対応できる性能を持っています。

 耐震仕様の彫刻台のつくりは簡単で、台そのものを重く重心の低いものにして大きな揺れでも倒れないようにしたものです。写真2は耐震仕様の彫刻台の裏面のぶたを外したところです。本体に厚くて重い材料を使い、ブロックなどの重りを低い位置に載せることで安定度を増します。この場合、地震の際には台座は床の揺れと同じように揺れますので、台座と作品をしっかりと結びつけておく必要があります。天板に見える黒い点は、そのためのボルトやワイヤーを通すための穴です。また、彫刻台にテグスという細くて丈夫な糸を使って固定する方法も、作品の転倒や盗難防止の目的も含めて、よく用いられています。


徳島県立近代美術館ニュース No.52 Jan.2005
2004年12月
徳島県立近代美術館 安達一樹