制作について1

 表現者は自分の中に生まれた表現の核になるものを、どのようにしたら鑑賞する立場の人たちに理解してもらえるかについてじっくりと考えて、それを伝えるために制作に取り組みます。自分の言いたいことや伝えたいこと、つまりアイデアやコンセプトなどといわれるものを、どんな材料や技術を用いて、かたちにしてゆくかということについて考える時間は、制作の過程で、とても大切なものです。これによって、最終的な作品のあり方が決まってくるわけですから、表現者はここで存分に考えを練り上げます。アイデアが意図したように鑑賞者のもとに届かなければ、作品を制作しても意味のないものにしかならないからです。そのためには日頃から、素材についての知識を蓄えたり、それらを扱う技術を磨いたりすることも忘れてはなりません。

 ところで、今世紀はさまざまな材料が生み出され、表現者たちの中には、それらを使って、これまでに表現することが不可能であると思われたことも実現することができました。けれども、反面、新しい素材にはそれらを使って作品が制作された前例がありませんから、今後、時間の経過とともに、どのように変質や劣化をしてゆくのか、よくわからないものもあります。あるいは、表現者の技術や知識だけではアイデアが実現できない場面にもたびたび出くわします。そんなときには、その材料や技術などに明るい技術者などの力を得て、制作をすることもあります。

 例えば、近年の巨大な作品などについては、科学者や土木技術者、建築家などとの協力なくしては生まれなかった作品がたくさんあります。そういった意味で、今世紀の私たちの世代の美術表現は、ユニークであるとも言えるでしょう。


徳島県立近代美術館ニュース No.35 Oct.2000
2000年9月
徳島県立近代美術館