制作について2

 私たちが作品を鑑賞する際に、20世紀から21世紀にかけての今を生きている人間として作品と向き合うということから逃れることはできません。それは、自分の生きている時代のほかには、どんな時代の作品と向き合うときでも、その時代の人々と同じ感覚では鑑賞することはできないということでもあります。

 19世紀の作家たちの作品を観て、その時代に生きた人たちの感覚で作品を鑑賞するとしたら、きっと今、抱く感想とはずいぶん違った感想を持たれることでしょう。うっとりと夢見るような印象の作品が、ぼんやりとつかみどころがなく、物足りないと思われたり、日常生活の中に見出した題材が、あまりに絵画の主題としてはそぐわないように思われて戸惑ったりすることでしょう。

 現在に生きる私たちは、さまざまな情報を得てきていますし、めざましい科学技術の発達の恩恵を受けてもいます。それは、かつては得ることの出来なかった感覚を手に入れているということですから、日常や自然、宇宙に向けるまなざしにも当然ながら大きな違いがあるということです。ですから、例えば当時としては斬新な試みをした作品でも、現在では心穏やかに受け止めることもできるのです。

 美術のみならず、音楽、映像、言語などの分野で、それぞれの時代に表現者たちは、自分の生きている時と場所で、創造への取り組みを営々と続けてきました。それなくして、私たちの豊かな文化の歴史はあり得ませんでした。そして、そのいずれの表現も、それぞれの時代において、同時代の人たちへの熱い思いが込められたものであり、新しいものを希求した試みの産物であったわけです。現代社会において日々、生み出されている作品は、時間が経てばまた違った感覚を持った人たちによって鑑賞されることでしょう。しかし、せっかく同時代に生きている私たちが、それらを味わい損ねてしまうことはじつにもったいないことだとは思われないでしょうか。


徳島県立近代美術館ニュース No.36 Jan.2001
2000年12月
徳島県立近代美術館 吉原美惠子