[暮らしの中に] 身近な美術表現

 公共の場における美術表現というと、一般に何を思い浮かべるでしょう。公園や街路に設置された彫刻作品、壁面に細工されたレリーフや絵、建物へのアプローチや通路に掛けられた絵画などでしょうか。これらは不特定多数の人々の目に触れる場に設置されている美術作品ですから、美術館で展示されている作品との違いがいくつかあります。

 美術館に足を運ぶ人たちは、誰かの表現に触れようという心構えで作品に向かいます。それに比べると、公共の場にほぼ恒久的に設置された作品は、思わず目の前に現れるなど、否応なしに人々の目に触れることが多く、まず観る人の姿勢が違います。ですから、作品とそれに触れる人々の間の距離関係が多様で、制作者はそれを考慮しないわけにはゆきません。また、作品が設置される場所は日常の空間で、かなりくせがあるはずです。ですから、各々の場所が持つ性質を活かすような作品が設置されるのが望ましいことは言うまでもありません。設置した時の状態が、比較的容易に維持されやすい材質や形状であることも重要です。毎日観なければならない作品は、例えば明るくのびやかな表現で、暮らしに活力を与えるものであってほしいですし、主張が明確で、堂々と時代を越えてゆけるような普遍的なものであってほしいとも思います。

 個人が選択したり拒否したりできない、暮らしに身近な表現だからこそ、私たちはそれらをもっと注意深く観なければならないのではないでしょうか。


徳島県立近代美術館ニュース No.21 Apr.1997
1997年3月
徳島県立近代美術館