クレーと出あった子どもたち −3年1組の記録−
「美術を〈よむ〉」展にあわせて、ぜひご紹介したいある教室での取り組みがあります。クレー「子供と伯母」の鑑賞を軸として、一人一人が絵と出会うことの素晴らしさ、そして絵を見て語る楽しさの根っこにある創造性を、実に楽しく子どもたちの活動の中にみすえていった、富田小学校3年1組の授業の軌跡です。
子どもたちは、「あの朝のおはよう」、「あの時のゴメンナサイ」を線と色でお話してみよう、そこから活動を始めます。一体どうやって? この小さな部屋の中にあふれる、かけがえのない心の声に耳を傾けてみたいと思います。
今回の授業の一つの山場となったのが、展示室で実際の作品を前に、思い思いの「クレーの絵本」を朗読するという試みでした。二人ずつのペアになって、お互いが思い描くお話を交換/交感し合い、晴れの舞台をめざして練習を重ねた7月8日の朗読会のことを思い出すと、今も背中がふるえる気がします。ほがらかにすみ渡る14話の朗読の声は、本当に聴衆の目の前で歌舞伎の速変わりよろしく、クレーの世界が姿を変える回り燈籠を演じて見せてくれました。
絵を鑑賞する時に、「先入観を押しつけてはいけない」といった考え方はごく一般的に納得されているように思われます。けれども、本当に作品により添い、他者と伝え合うことを願って練られた感想文や評論は、実は人を触発し意欲を高める魅力に満ちています。他者の感想を共感的に受けとめる力とは、当の美術作品を「主体的に」見るための姿勢にも相通じると言ってよいでしょう。絵を描くことと、絵から受け取った言葉を生み出すことの間に、一体どれほどの垣根があるのだろう、そんな再考のチャンスを与えてくれた彼ら彼女らの努力に心から感謝したいと思います。
短歌と美術の出会いを探る今回の特別展と、教室の取り組みは偶然に同じ課題を共有しています。すなわち、絵を見る楽しさとは、自らの心の創造性を実感し、自己を確かめる悦びに他ならない、そのことをとらえ直したいという思いです。
(展示担当: 主任学芸員 竹内利夫)
協力:徳島市富田小学校3年1組/濱口由美教諭
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