[保存のはなし] 温度と湿度

 展示室の温度について、夏は「冷房のし過ぎ」、冬は「暖房のし過ぎ」というご意見をいただくことがあります。これは、感覚的には、もっともなことだと思います。しかしこれは、人間に対しての暑さ寒さの問題です。実は、展示室の暖房や冷房は、作品の保存を考えて調節されています。展示室の温度と湿度を年間を通じてある程度一定に保っているために、外気との差で人間にはこのように感じられるのです。

 では、なぜ温度と湿度を一定に保つ必要があるのでしょう。理由はいくつかありますが、簡単な例を紹介しましょう。

 温度が変化すると、物が伸び縮みすることを皆様はご存知のことと思います。鉄道のレールの継ぎ目が少し空いているのもそのためです。また、温度とともに湿度も変化しています。湿度の変化によっても物は伸び縮みします。障子の紙が張ったり緩んだりするのはそのせいです。そして、温度や湿度の変化が同じであっても物の種類によってそれぞれの物の伸び縮みの割合は違います。この違いが曲者なのです。

 美術作品も、温度や湿度が変化すると、僅かですが伸び縮みします。例えば、油彩画は構造的には木の枠に張った布の上に絵の具を着けています。そして、温度や湿度の変化があった場合、木と布と絵の具では伸び縮みの割合が違います。するとどうなるか。違いの分だけ接着面に無理な力が加わり、絵の具が剥がれたり落ちたりします。つまり温度や湿度の変化によって作品が壊れることがあるのです。

 また、日本は高温多湿の気候なので、自然のままではカビの心配があります。力ビの生じにくい温度や湿度にしておく必要もあるのです。


徳島県立近代美術館ニュース No.27 Oct.1998
1998年9月
徳島県立近代美術館