[保存のはなし] 光

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光による損傷のひとつ:退色
隣りにあった小さな本の影になった部分は色が残っています

「展示室の照明が暗い」というお叱りをうけることがあります。しかし、明るさの感じかたには条件の差や個人差があり、どのくらいの明るさがあれば明るいといえるのかを一概に論じることはできません。ここでは、展示室がなぜ現在の明るさになっているのかについてお話ししましょう。

 美術館は、現代の人々だけではなく子々孫々の時代の人々にも作品を見せる使命を負っています。そのためには作品が現在以上に傷まないように努めなければなりません。これが保存です。ところが、光は作品を傷つける三大要素のひとつなのです。紫外線や赤外線はもちろん、私たちの目に見える可視光線にも問題があります。保存の立場からすれば、光は無いほうが良いのです。

 光は、太陽や電灯などの光源から放射されて作品にぶつかります。光はそこで様々な部分にわかれますが、作品の内部で一部は吸収され一部が反射されてきます。この反射されてきた光が、私たちの目に届いて作品の色として見えるのです。ここで、反射されずに吸収された光が問題となります。吸収された光はエネルギーとなり、作品に影響を与え、傷めます。簡単にいえば、作品は光によって見ることができ、同時に光によって傷つけられているのです。

 美術館の使命は見せることですから、作品から光を排除することはできません。そこで、作品を見ることが可能で、なるべく傷つけない条件を研究した結果が、現在の展示室の明るさなのです。傷つけられる程度は作品を形成する物質とその状態によって違います。材質的に光に弱い版画や日本画がより暗く展示されているのはそのためなのです。


徳島県立近代美術館ニュース No.26 July 1998
1998年6月
徳島県立近代美術館