美術館TOP よみもの 「わたしは謎だ。」 I am an enigma.

 

距離感、そして目撃者

 

図版1
〈前と後〉
1943

 

 マン・レイは自分自身を撮影したセルフ・ポートレートを多く残していますが(図版1)、それらは親密な感じのするプライベート写真ではなく、モデルとしての自分自身を第三者的にながめ、自己演出されたものです。マン・レイの個人的な経験や感覚などがモチーフとなっているにもかかわらず、それらの作品は、マン・レイ個人の思い入れがたっぷり伝わってくる、というものとは違っています。「マン・レイ」という人間は、誰からみても等距離にある、いわば客観的な「もの」なのです。
 また、マン・レイは、前衛的な芸術運動が繰り広げられる時代に、そこにかかわった多くの人々の肖像写真や、グループ写真をのこしました。彼は、自分自身もアートシーンに深く関わった当事者でしたが、それと同時に、時代の目撃者としても生きたのです。自分を客観的に眺める視線、あるいは、時代との距離感を測りながらシャッターを切る目撃者としての感覚。ここに、マン・レイが感じていた、自分も含めた世界の事物との距離感、といったものを伺うことができるのではないでしょうか。そして、それは現代に生きる我々が、「自分自身とは何か」を問いかける意識ともつながるのかもしれません。

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「私は謎だ。」 I am an enigma.
   

はじめに
人間/光線! 何者?
写真
オブジェ 言葉あそび
映画
絵画、版画、そして再制作
距離感、そして目撃者
マン・レイとは、何者だったのでしょう。

   

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