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マン・レイ展
「わたしは謎だ。」
2005年1月15日(土)-3月21日(月)

 
   

マン・レイ展の出品作品から次の5点をとりあげてご紹介します。

〈前と後〉
〈イジドール・デュカスの謎〉
〈マックス・エルンスト ソラリゼーション〉
〈パン・パン(彩色パン)〉
〈恋人たち+裸体とチェスセット マン・レイのアトリエ パリ〉

   
   

マン・レイ展のご紹介はこちらです。

   

〈前と後〉
 1943年 シルバー・プリント 17.8×11.4

 

 こちらをグッと見つめる一人の男。革新的な芸術運動が繰り広げられた20世紀のアート・シーンを駆け抜けたマン・レイです。ロシア系移民の子として1890年にアメリカに生まれ、のちにフランスに渡り、写真、絵画、版画、オブジェ、映画など、幅広い領域で活躍しました。
 マン・レイ(Man Ray)という名は、本名のエマニュエル・ラドニツキー(Emmanuel Radnitsky)を省略した形ですが、英語でManは「人間」、Rayは「光線」の意味も持ちます。いわば「人間/光線」といったところです。
 〈前と後〉という写真には奇妙なところがあります。そう、ヒゲが顔の片側にしかありません。いわば、使用前、使用後といったところでしょうか。この不思議な姿と「厳しい目つき」との対比のおかしさ。このようなユーモアは、マン・レイの特徴の一つです。
 さて、この写真は一種の自画像ともいえますが、意外にも、マン・レイの人柄や性格といったものが、あまり伝わってくるようには思えません。むしろ、自分をこっけいな姿として演出することで個性をはぎとり、自分自身を一種の客観的な「もの・物体」として、クールにとらえようとしています。
 ユーモラスで実験的で多彩な表現活動。そして、生身の個性をさらけださない正体不明で謎めいたアーティスト、マン・レイ。「あなたは何者なのですか」という問いかけに、彼はこう答えたそうです。「私は謎だ。」

(主任学芸員 友井伸一)

※ この解説は、徳島新聞(2005/1/27)に掲載された文章に加筆したものです。

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