|
〈マックス・エルンスト ソラリゼーション〉 1935年 ゼラチン・シルバー・プリント 24.5×16.0
マン・レイ自身は「写真家」と呼ばれるのを好まなかった、と言われていますが、絵画やオブジェ、映画など、多彩に展開した彼の生涯の中でも、写真は重要な表現手段でした。
アーティスト仲間や恋人たちに加えて、社交界の人々からも人気を博した肖像写真。あるいは多くのファッション雑誌を飾ったモード写真。被写体となる人物の特徴をうまく捉えた作品もあれば、モデルをまるでオブジェのように「もの・物体」として扱った作品もある。また、商業写真でも、時には新しい実験的な技法を駆使する。そんなマン・レイの写真は、生前の早い時期から高い評価を受けています。
この作品は、マン・レイとともにパリのシュルレアリスム運動に参加した優れたアーティスト、マックス・エルンストの肖像写真です。エルンストの体の周囲や下部が白く光を放つように輝き、輪郭は黒く縁取りされています。
ここには、マン・レイが精力的に取り入れた新しい技法の一つ「ソラリゼーション」が用いられています。様々なやり方がありますが、マン・レイの場合は、主にフィルムの現像中に光を紛れ込ませることで行いました。また、これ以外にも、印画紙に直接「もの」を置いて、感光し焼き付ける「レイヨグラフ」という技法も生み出しています。
単に現実を再現するのではなく、光の偶然のいたずらを取り入れた、光と影が生み出す驚異とポエジー。まさしく、人間/光線マン・レイの面目躍如といえるでしょう。
(主任学芸員 友井伸一)
※ この解説は、徳島新聞(2005/1/28)に掲載された文章に加筆したものです。
|