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マン・レイ展
「わたしは謎だ。」
2005年1月15日(土)-3月21日(月)

 
   

マン・レイ展の出品作品から次の5点をとりあげてご紹介します。

〈前と後〉
〈イジドール・デュカスの謎〉
〈マックス・エルンスト ソラリゼーション〉
〈パン・パン(彩色パン)〉
〈恋人たち+裸体とチェスセット マン・レイのアトリエ パリ〉

   
   

マン・レイ展のご紹介はこちらです。

   

〈恋人たち+裸体とチェスセット マン・レイのアトリエ パリ〉
 1935年頃 ゼラチン・シルバー・プリント 58.8×68.8

 

 巨大な唇の怪物が、裸の女性に襲いかかる。そんな場面にも見えますが、これはマン・レイのパリのアトリエです。上半分の唇の部分はマン・レイの描いた油彩画<天文台の時刻に-恋人たち>。下半分には、背中を向けて絵の下に横たわる女性のヌードとチェス盤が写っています。
 唇が巨大化する驚き。もはや声を出したり食事をする機能を失い、ただの「もの・物体」と化した唇。生身の人体というよりも、まるで唇と呼応する形態をした奇妙な物体のような女性のヌード。「唇」と「ヌード」と「チェス盤」という思いがけないものがめぐり合うおかしさ。これらすべてが、マン・レイの、そしてシュルレアリスムの表現の特徴をよく表しています。
 マン・レイは恋人リー・ミラーとケンカ別れした後、上半分に写っている油彩画を描き始めました。巨大な唇は女性のヌードにも、男女が抱き合う姿にも見えます。この唇はリーへの愛憎の化身なのかも知れません。
 唇もチェス盤も、マン・レイの作品に何度も登場するモチーフです。でも、それはいわゆる、思い入れのたっぷりこもった「こだわり」とは違います。そのモチーフは、「こだわり」も含めてなんの意味づけも持たない、ただの「物体」として、あくまでもクールにとらえられます。そして時には節操なく繰り返され、謎めいた多くのヴァリエーションとして増殖する。この反覆性は、マン・レイを理解するための重要なキーワードといえるでしょう。

(主任学芸員 友井伸一)

※ この解説は、徳島新聞(2005/1/29)に掲載された文章に加筆したものです。

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