以上、日本画の人間表現の流れや楽しみ方について駆け足で見てきました。実をいえば、ここで述べた「人間表現」という捉え方は、徳島県立近代美術館の作品収集における柱の一つとなっています(注2)。開館(一九九〇年)に先立つ一九八八年、人間表現の日本画として最初にコレクションとなったのが片岡球子〈浮世絵師安藤広重〉(一九八一年)でした。それから二〇年足らずの間に収集した作品が、本展の軸となっています。普段は、油彩画や彫刻などとともに、所蔵作品展の壁面を飾っていますが、今回は、他の美術館、ご所蔵者からお借りした作品といっしょに、主なものをまとめて展示することになりました。
人を中心とする日本画コレクションは、全国でもあまり例はないようですが、ゼロから出発したものであり、本来あるべき作家の作品や欠けている傾向が少なくないのも事実です。この展覧会では、お借りした作品と合わせて、人間表現の魅力を楽しんでいただくとともに、今後(たとえば次の二〇年間)、どのようにコレンションを育てていくべきなのか、そんなことも、来館者の方々といっしょに考える機会になればと願っています。
(専門学芸員 森 芳功)
(注2) 当館の収集方針は、近現代の人間表現、徳島ゆかりの美術、現代版画という3つの柱があります。日本画の分野でも、人間表現と徳島ゆかりの美術の両面で収集に取り組んでいます。
