徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
学芸員の作品解説
ドラ・マールの肖像
1937年
油彩 キャンバス
55.0×38.0
1937年
油彩 キャンバス
55.0×38.0
パブロ・ピカソ (1881-1973)
生地:スペイン
生地:スペイン
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ピカソドラ・マールの肖像
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美術館ニュース
徳島新聞 美術へのいざない
毎日新聞 四国のびじゅつ館
所蔵作品選1995
鑑賞シート「指導の手引き」より
ピカソの版画
パブロ・ピカソ 「ドラ・マールの肖像」
吉原美惠子
美術館のコレクションは、館の在り方や姿勢を具体的に示すもので、展覧会の企画とともに、美術館の存在の独自性を語る際には欠かせないものです。県立近代美術館では、これまで「人間」をテーマにした作品、徳島ゆかりの作家の作品、国内外の現代版画作品という三つの部門を軸にして作品収集につとめてきました。なかでも「人間」は、当美術館の在り方を最もよく示す部門です。これまで、芸術の世界において「人間がどのように表現されてきたか」という問題を考えることで、社会意識の変遷をたどることもできます。また、現在の立脚点を確認し、来るべき未来をどのように創造してゆくべきなのかを「人間」を通して考えることは大切です。これまでも多くの芸術家たちは、人間の造形表現に対して、じつにさまざまなアプローチを試みてきました。例えば、今世紀最大の芸術家といわれるピカソも、人間表現には深い興味を示しました。というより「人間」は、彼の生涯のテーマだったと言ってよいでしょう。
ここに紹介する一点は、一人の女性の肖像画です。彼女の名前はドラ・マール。ユーゴスラビア生まれの芸術家です。彼女は1936年にピカソと出会い、その後約10年間をピカソとともに暮らしました。その間にピカソは、彼女の肖像画を数多く制作しています。ピカソはその生涯に、愛する人たちを描いた傑作をいくつも残していますが、この作品もまさしくそのうちの一点です。
ドラ・マール自身は、シュールレアリスム(超現実主義)を信奉する芸術家だったのですが、ピカソの傍らでは、彼の制作風景を熱心に、数多く写真に撮って残しています。ピカソが彼女をモデルにして何枚も何枚も描き続けた第二次世界大戦前の一時期は「ドラ・マールの時代」ともよばれています。一人の人間を真摯(しんし)に見つめ、繰り返し描いた天才の画業は、私たちにいかに多くのことを語りかけてくることでしょう。
同じことは立体作品についてもいえます。ジャコメッティの研ぎすまされたような人体の表現はどうでしょうか。ジャコメッティは最初ブルーデルに彫刻を学びましたが、その後キュービズム(立体主義)、シュールレアリスムと展開し、鋭く削られた人間像が特徴です。人間の体を少しずつ削っていき、最後に骨のようになった姿は、人間社会における疎外感を象徴的に表現しています。凛(りん)とした一人の人間像は、その周りの空気をキリリと引き締め、人間の存在感がより強い作品となっています。
徳島新聞 県立近代美術館 03
1990年10月24日
徳島県立近代美術館 吉原美惠子
1990年10月24日
徳島県立近代美術館 吉原美惠子