徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
ドラ・マールの肖像
1937年
油彩 キャンバス
55.0×38.0
パブロ・ピカソ (1881-1973)
生地:スペイン
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ピカソドラ・マールの肖像
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パブロ・ピカソ 「ドラ・マールの肖像」

友井伸一

 この女の人の顔はよく見ると少し変です。横顔のようですが、向かって左側の目は正面向きだし、横から見て目や鼻の穴が両方見えるのはおかしいことに気が付きます。
 私たちは物を見る時、カメラのように固定された一つの視点から瞬間的に物をとらえていますか。
 いいえ、それなら、ただ目に映っているだけです。上下左右、時には後ろからも観察して初めて、私たちは「物を見た」と言えるのです。この絵にはピカソのこんな考えが反映されていて、いくつかの方向から見たところが同時に描かれています。
 モデルはピカソの恋人の一人、ドラ・マールです。彼女は画家であり、スペイン内乱に抗議してピカソが1937年に描いた「ゲルニカ」の制作過程をカメラに収めた写真家でもありました。しっかりした鼻筋や口元は意志の強さを感じさせ、黒い服や紫色のスカーフは、なかなかおしゃれです。
 この絵を眺めていると、初めは横を向いていた彼女が不意にこちらを振り向いたように見えてきませんか。こんな出会いにドキッとしたピカソのときめきが伝わってくるようです。
毎日新聞 (四国のびじゅつ館) 学芸員が選ぶ2
1995年6月17日
徳島県立近代美術館 友井伸一