本の起源、美術の起源

 私たちの身の回りにあふれている本。一体いつ頃から本はあるのでしょうか。本を「何かの情報を伝えるための記号や文字、図をなんらかの物体の上に記したもの」であると考えれば、本の始まりは、たとえば紀元前6世紀頃のラスコーの壁画にまでさかのぼります。現在の私たちになじみ深い、印刷した紙を綴じた冊子の形になったのは、15世紀にグーテンベルクによって活版印刷術が発明された後ですが、それ以前も、例えば写本と言った形で本は存在していました。

 では美術の起源はいつ頃でしょうか。実はこれも、本と同じくラスコーの壁画あたりにまで行き着きます。美術だって何らかの情報を伝えるために作られていることに変わりはありません。元を正せば、本と美術の起源は同じなのです。そして共に、情報を伝えるメディア(媒介)なのです。

本と美術の関わり

 いくら起源が同じとは言え、やはり本と美術は同じものではありません。その関わりも、ほんの百数十年あまり前までは、美術は本を美しく装飾するためのものであったり、挿絵として本の内容を補足説明したり、字の読めない人のための絵解きとして登場する程度でした。

 それが19世紀末になると、様子が変わってきます。20世紀前半にかけて盛んに作られた豪華な挿絵本、イタリア未来派やロシア・アヴァンギャルドなどの前衛芸術が生み出した、斬新な本の数々。また戦後になると、本のあり方や特性を探求し、芸術の表現としてアーティストが制作する本、アーティスツ・ブックスが出現します。

 この展覧会では、本の形態やメディアとしての特性を問い直し、美術の今日的な表現手段として「本」を注目してきた20世紀を振り返ります。

 

 

 
 
 
 
 

目次
序 本の起源、美術の起源 … 本と美術の関わり
1 芸術家と本
2 アヴァンギャルドの時代
3 多様な戦後
4 60年代以降 アーティスツ・ブックスの時代
5 80年代以降