徹底

二つの傾向を探求

徹底 時代に導かれて

作家がデビューした1960年代、大量消費社会のマスメディアや複製技術の役割が注目され、こうした風潮の中で版画芸術はホットな領域となります。一度刷れば版が消えてしまうモノタイプは、版画の規定を問い直す意味でも関心を集めました。有徳は時代の要請に応じるかのように、集積の手法を突き詰めます。
 ヘラでこするとインクの陰影が生まれ、それが積み重なると奥行きが生まれ、そうして何を描いてもいないはずの場所に光と影、空間がひろがります。針金や電線の密集を見るかのような作例では、無限の奥行を持つマジックをやりつくし、青色系の有機的な図像の群生はミクロの生態を垣間見るような面白さがあります。初期モノタイプの何かが「見えた」ことへの驚きを維持しながら、二つの傾向へと作家は勤勉な探求を進めました。

小品について

細部の集積である有徳のモノタイプは、用紙が小さくても大きくても、自在に奥行を詰めたり広げたりして同じような架空の空間を生み出します。この不思議は、景色や密度を見てとるのは観客自身であるという一原作品のからくりと言えるのかも知れません。皆さんはどのように感じるでしょうか。

作品紹介〈SIA〉

タイトルの「SIA」とは何も意味しておらず、作者はどんな物語も語りません。ただ光と闇、スピード感だけの、視覚のフィクションに私たちは迷い込んでいるのです・・・
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作家のメモより

「一原有徳・版の世界展(1998年)」準備段階の作家による展示提案。「アブストラクト・ランドスケープ」の展示として地平線をそろえるアイデアが書かれている。実際には実現しなかった。