2006年03月05日

 展覧会名: 「おかえりなさい ここで生まれた絵かきさん
        富田小三年+宇三郎=アートの町」
 日時: 平成18年3月4日(土)〜5日(日) 10時〜16時
 場所: 原田家住宅(武家住宅)/国・登録有形文化財
        徳島市かちどき橋3丁目43
 徳島市富田小学校3年1組+2組による、作品&展覧会づくり&広報活動


見学日記


 すごい展示を見た。国の文化財である武家屋敷を舞台に、地域の学習と図工科をからめた学びの成果が展覧会になってしまうという企画。小学生の展覧会だとあなどってはいけません。釘一本打てない歴史的な木造建築の雰囲気を最大限に活かし、地元出身の伊原宇三郎を多彩に題材化した作品群のコーナー展示は、明快で見ごたえ十分。harada1.jpgほんの1時間だけ展覧会づくりの出前授業をしたご縁で、ここにレポートを書かせてもらうことにします。

 玄関を入ると「ようこそおいで下さいました」と正座でおむかえしてくれるクラスの受付当番さん。古い間取りの部屋をくぐりぬけるごとに、新しい展示がひろがります。なんだか江戸時代の茶人にでもなった不思議な気分で、初めての原田邸探検をしました。解説パネルも、来場者が取り組める体験グッズも、工夫したキャプションも、全てもちろん手作り。
 文章もコーナー名もよく練られています。室内、扉、影、模写、学びを通して宇三郎に抱いた共感をつづったメッセージも、実にわかりやすく用意されていました。そこが難しいのだと美術館人なら分かるはず。ただ並べるだけでは展覧会にはならないのです。どこかの学芸員実習なんかより、よっぽどレベル高いぞこれ…。

harada2.jpg 「おかえりなさいここで生まれた絵かきさん 〜 富田小3年+宇三郎=アートの町」。よくできたタイトルが全てを語っています。(担当チームで何十個も検討したんだってね。よく粘った!平野さん。)美術の学びとは決して、表現か鑑賞か、図工か国語か、歴史学習か批評技法かなどと縦割りに整理して終わるものではないことを、子どもたちはしっかりと受けとめているのです。そんな内容てんこ盛りの活動を、地域の文化遺産を活かした展覧会づくりへと結実していく、濱口先生の教師としての発想のきらめきに感心します。ほめ殺し?いえいえ学芸員としての嫉妬かも知れません。
 けれども、この展示のすごいところは実は当の作品の良さにあることも、忘れずに注目しておくべきだと思います。仁王の描写や、巨匠たちの絵の模写、室内、影、それらのテーマは、伊原宇三郎の作品鑑賞や伝記学習と豊かな水路でつながり、しかも子どもたちは的確にその核心をつかみながら力を発揮しています。
 世の同業者や先生方の中で、「鑑賞と表現が結びつくのか?」などと理屈を考えあぐねている人がいるとしたら、どうぞ迷う間にぶつかってみて下さい。この 1年間、僕がつきあってきた3年生たちは、すべきか否かを議論する段階など、とうに乗り越えているように思います。そこに何か魔法があるとしたら、それはコミュニケーションという視点なのだろうと思います。僕が発見したわけではありません。濱口先生に教わったことです。鑑賞教育のわくわくの扉をあける鍵。誰でもがポッケに持っているはずの鍵。

 帰り際に玄関の道しるべ塔を見ると、授業で関わった人へのありがとうが書かれていて、とても嬉しかった。照れました。(なんか足りない…と悩んだあいさつコーナー、スマートに上手にまとまったよね、なな実さん。)harada3.jpg
 たった二日間の短い展覧会。桜も気持ちのよい陽気も、がんばった子どもたちへのごほうびに思えるとある人が言っていました。お客さまをお迎えするクラスの子らは、本当にうれしそうで晴れやかな顔。きっと心の宝物にして、学年上がってくれるといいなと願います。
 最後に一つ収穫を自慢。この春に僕が計画している伊原宇三郎の展示では、このおかえり展の楽しいアイデアをもらって構わないとお許しをもらいました。ぜひまねっ子させてもらうよ、ありがとね福田くん。
© 徳島県立近代美術館 2005-2009