2005年09月04日

春から夢みた日

いちりんしゃ春から夢みたワークショップの日がついに来た。大人の人や子どもたち、そして若いアーティストや卵たちが、一緒にこの美術館でアートと向き合う場面に出会いたかった。前日の夕方近くに到着したトラックには岩野勝人さんの真っ赤な大椅子! 本番の前からどんな会場になるのかわくわくする。徳島で初登場のワークショップ・カーもお目見え。ロバのパン屋のように、秋祭りの屋台のように、ふるさとの山村へアートの楽しさを届けたい、そんな素適な夢に向かって、出来たてほやほやのワークショップ・(一輪)カーがこの日に来てくれて本当に嬉しい。きっとぼくも一緒に夢を見たかったのだ。それがまたラブリーな仕上がりで、クレヨンを積み上げてよろよろ手押しの姿も似合いすぎ。大きなパラソルを開いてにやりとこっちを見る岩野さん。なんでこの人、ぼくの喜ぶことが分かるんだろ。

当日は朝からワークショップと展示の準備。若いアーティストたちは荷降ろしの時から緊張がビシビシ伝わってくる。ぼくにとっては素適な遊園地のような会場準備だけど、彼ら彼女らにとっては戦場だ。結構すったもんだしながら会場ができあがっていく。もくもくと働く姿を、自分の学生の頃と比べて感心する。それでも岩野さんのゲキが飛ぶ。大らかで厳しい視線。

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ゆかおきそして、まだ作品が床置き状態の会場に、子どもたちが入ってくる。すぐに作品と、そして作家たちとお話をはじめる子どもたち。これなんだ。幸せがこみ上げてくる。パノラマ絵画のルールを説明する岩野さんの声に、参加者のみんなも始めは少し緊張気味。「ここへ戻ってきて、思い出して描いて下さい。いいかなぁ?」、「えー‥」戸惑いとわくわくの不思議な薄ら笑いが広がる。40のマス目のどこが当たるのか、くじびきのように番号が裏に書かれた画用紙を受け取ると、われ先に走り出す。いざスタート。

めがね今回は見る場所(シンボル広場の噴水)と会場がとっても遠い。みんなよく走った。なぜか?忘れてしまうからです!これはやった人ならすぐ分かる。カメラのように目にやきつけてね、って言われても、見た1秒後には忘れてる。少し描いては「ダメだー」とまた次々に走りにいく。だけどそれも楽しそう。「徒競走より何倍も盛り上がる クラスリレーみたい」−たくさんの参加者を誘って下さった濱口由美先生からのメール。

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会場に戻るとみんな床に這いつくばって、一見お絵かき教室。でもどこかが違う。じーっと画面を見つめてはクレヨンをとる。首をかしげながら塗り込んでは休む。ぼーっと宙を見あげてパノラマメガネで覗いた景色を思い出す姿。よく見ること、描くこと、まるで生まれて初めてそれをする幼な子のように、知らず知らず自分が裸になっていく。写生という珍しくもない手法が、少しひねるだけでこんなに奥深いプログラムとして動き出すのだ。しばらくして、サポートの若手アーティストたちも残ったマス目を描き出す。もちろんみんな真剣・無言。これはぼくも参加したから分かる。素朴な材料ゆえ手の内が丸のまま露わになる。並べてみたら一目瞭然、幼い子のパワーに脱帽!ってこともあるのだ。別に人と競争するわけじゃないけど、気がつけば夢中になってる。本当によくできた仕掛け。

えがく結局2時間近く費やして、夏の終わりにふさわしい、エネルギーに満ちた絵ができあがった。40枚並べてみると本当にきれい。思わず声があがる。パチパチパチ!!とみんなで自画自賛。本当に嬉しい瞬間だった。自分で走りきった気持ちのいい疲労感がある。全体の一部をになってる達成感がある。誰も無理はしていない。自分でいることができるように、そこだけに集中した。だけどそれがどんなに難しいことか、絵描きを目指す人なら知っている。だから岩野さんと軍団の若い人たちのサポートは、的確だけどとてもしなやかで、おだやかな風のようにそおっとみんなの間を包んでは消えていく。

夢みたとおり。ぼくらの美術館に風が吹き抜けていった。

さくひん

>> 40人のパノラマ絵画!

「40人のパノラマ絵画」
2005年9月4日(日)13-16時 美術館ギャラリー(1階)、屋外
対象=一般(小学生以上) 参加無料
講師:岩野勝人・大阪成蹊大学芸術学部助教授
サポート:二木奈緒、池上将暢、吉田翔、高橋理紗、戸田真人、阿部順乃介
© 徳島県立近代美術館 2005-2009